2019 Fiscal Year Annual Research Report
The Concept of Time in Deleuze : From the Viewpoint of Speculative Realism
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17J06295
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
黒木 萬代 大阪大学, 人間科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2021-03-31
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Keywords | ドゥルーズ / フランス現代哲学 / 時間論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、まず論文「『差異と反復』と『意味の論理学』の断絶を示すものとしての「表面」概念について : 「プラトニズムの転倒」と時間論の観点から」を発表した。本論文では、ドゥルーズが現代哲学の務めとして掲げた「プラトニズムの転倒」と『ザッヘル=マゾッホ紹介』において提示される、プラトニズムの転倒を実行する方法としてのマゾヒズムの議論を絡めながら、『意味の論理学』における時間論(アイオーンとクロノス)について論じた。また、深層しかなかったとされる『差異と反復』での議論が、『意味の論理学』において新たに論じられる「表面」という次元とその時間「アイオーン」によってどのように再構成され、そしてそのような再構成にはどのような問題意識があったのかも同時に探求した。 次に、論考「少女の目に映るわたしたちが彼女のこの世界を信じる理由となるために : ドゥルーズのマゾッホ論からみるフェティシズムについて」を発表した。本論は、精神分析を用いたフェミニズム映画理論による映画における女性の表象と観客の視覚の議論と、ドゥルーズのマゾッホ論を交錯させながら、精神分析における「父」偏重の理論を批判し、精神分析が軽視していた「母」の次元に重きを置いた議論を提示した。また、本論はフェミニズムにおける女性のフェティシズムについての議論を取り入れながら、フェティシズムの源泉が去勢不安ではなく前エディプス期に見出さられる点を指摘し、女性にもフェティシズムが可能であることを明らかにしながら、議論を深化させた。 以上のような、実績と並行して、ラカンとクラインにおける前エディプス的次元の理論の比較研究、フェミニズム関連の文献調査、フェティシズムや部分対象についての研究、ストア派についての文献調査を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ドゥルーズの『差異と反復』と『意味の論理学』における時間論について、『ザッヘル=マゾッホ紹介』での議論を絡めながら独自の視点から研究し、論文としてまとめることができた。また、ガタリとの共著以前のドゥルーズが精神分析の父偏重の理論に対して批判的な観点を持ちながら、どのように自らの哲学を作っていたのかを、フェミニズムの観点も取り入れながら、研究することができた。その他にも商業誌で批評を発表するなど意欲的に活動できた。以上の理由から概ね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
ドゥルーズは「ザッヘル=マゾッホからマゾヒズムへ」においてすでに精神分析における「父」偏重の理論を批判している。その後、『ザッヘル=マゾッホ紹介』においては、「父」なしで「母」のみから生まれ直すというマゾヒズムの試みを論じることで、フロイト-ラカンによる精神分析が軽視していた「母」の次元を全面化した独自の理論を提示した。またこのような既存の精神分析理論に対する批判を伴う「母」の次元の強調は、前エディプス期を重視するメラニー・クラインの理論を導入して論じられる『意味の論理学』へと結実し、その後ガタリと共に分裂分析を提唱する流れへとつながっていく。そして、このようなドゥルーズの問題意識は、最初期の論考「女性の叙述」で歴史的に哲学において排除されてきた「女性」の哲学的規定を試みる若きドゥルーズの問題意識ともリンクしていると思われる。これもまた、『ミル・プラトー』において、あらゆる生成変化がそこを経るべきであるとされる「女性への生成変化」が語られることへとつながる問題系だろう。これまで一貫して進めてきた時間論的な観点からドゥルーズ哲学を再考するということと同時に、このような観点からドゥルーズ(及びガタリ)が、母や女性といった概念を用いてどのように「父」が支配する精神分析に対抗しながら自らの論を作っていったのかも引き続き研究していきたい。 以上のような研究の成果を、学会誌論文として発表するとともに、博士論文の準備を進めていく。
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Research Products
(3 results)