2017 Fiscal Year Annual Research Report
アッシリア帝国、新バビロニア帝国、アケメネス朝ペルシアにおける書記と書記文化
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17J06451
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
伊藤 早苗 上智大学, 神学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | アッシリア帝国 / 書記 / 書記文化 / 新バビロニア帝国 / アケメネス朝ペルシア |
Outline of Annual Research Achievements |
まず当該研究の概要について、筑波大学西アジア研究センターで口頭発表した。この際に同分野の専門家と議論をし、助言を受けた。 書記研究として、アッシリア帝国の人名事典から書記 ならびに教育課程で書記術を学んだであろう所謂学者全て1143名をリストアップした。その際、各々の名前だけでなく、名前の言語系統、性別、活動した時代や特定の年、出身地、生活拠点の都市、職場、職名、親族関係、言及される文書、それらの文書における役割や背景も記録した。これはアッシリア帝国全時代の書記ならびに学者を網羅した初のリストである。今後このリストを用いてソーシャルネットワーク研究を実施する。 書記文化研究として、アッシリア帝国前7世紀における書記兼天文学者による日食や月食の予測、観測、解釈の王への報告書に関し、ベイルートで開かれた国際学会で口頭発表した。また王立文書庫を介したであろう先々代の王のエピソードを伝えるアッシリア最盛期の王アッシュルバニパルの書簡について、マールブルグ大学での国際アッシリア学会で口頭発表した。更に、書記術の習得を誇る王による民の平等な待遇を謳った王室書簡に詳細な注釈を加えた論文を、ポスドク研究員セバスチャン・フィンクと共著で出版した。加えて、王宮の書記による王室書簡の作成プロセス及び使用言語と書体に関して執筆した論文が受理済である。 アッシリア帝国王立文書庫史料のデータベースを利用するためヘルシンキを訪問した。これらの史料研究の第一人者であるヘルシンキ大学のシモ・パルポラ名誉教授と協働し、彼が編纂した約160点のアッシュルバニパル書簡史料集のイントロダクションを執筆し 、現在出版待ちである。前述のとおり、同王の時代にアッシリア帝国は最盛期を迎えており、彼の治世の史料分析はアッシリア帝国研究にとって極めて重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年7月から12月までオランダ王国、ライデン大学にて在外研究を実施した。同大学のカロリン・ワーザッヒャー教授率いるERCプロジェクト“ペルシアとバビロニア:初の世界帝国出現を理解するための新しいコンテクストの創造”(Persia and Babylonia: Creating a New Context for Understanding the Emergence of the First World Empire)の協力を得て、ソーシャルネットワーク研究方法ならびに人物データベース構築について助言を得た。ソーシャルネットワークを明らかにするための書記ならびに学者のリストを用いたマトリックス作成や、専用ソフトUCInetを用いたネットワークの描画法を学んだ。また、前1千年紀メソポタミアの国家行政の専門家であり上記プロジェクトのポスドク研究員メラニー・グロスの協力を得て、新バビロニア帝国の王宮の書記や他の国家官吏に関する情報提供を受けた。 2017年11月にボストンで開かれた米国オリエント学会年次大会に参加し、2018年11月米国デンヴァーで開催される同学会にてデジタルヒューマニティーズのセッションで研究発表するため、セッションオーガナイザーであるエイミー・ガンセル助教授 ならびにヴァネッサ・ジュロー研究員と打ち合わせを行った。発表内容は、アッシリア帝国前7世紀の王宮における書記ならびに学者のソーシャルネットワークに関する研究を予定している。 自身の妊娠ならびに出産のため、航空機搭乗制限や採用中断(2018年1月~)により、ミュンヘン大学のラドナー教授を訪問することは出来なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
出産育児に関わる採用中断から研究を再開するのは2018年9月である。よって2018年度の研究期間は7か月になるが、採用中断した期間8カ月分を利用し、当該プロジェクトを2020年11月末まで延長する。 研究再開後は、まずアッシリア帝国の書記ならびに書記文化研究に集中する。前述のリストを利用して、ソーシャルネットワーク分析を行い、関係性を描画する。またヘルシンキ大学の王宮文書データベース(非公開)やペンシルヴァニア大学のアッシリア王碑文のデータベース(無料公開)を用いて間テクスト性を調べ、知識転移のあり方を探る。さらに、Cuneiform Digital Library Initiativeで無料公開されている粘土板文書の写真を利用し、王碑文や王宮書簡の筆跡から、王宮において国家官吏ならびに学問の担い手として働いていた書記を特定できるか試みる。 その後は、新バビロニア帝国ならびにアケメネス朝ペルシアの書記、書記文化研究を行う。ただしこれらの帝国からは王宮文書が殆ど見つかっていないため、王碑文や年代誌を利用し、書記文化研究を中心に行う。この際、ミュンヘン大学のラドナー教授の研究プロジェクト(The Royal Inscriptions of Babylonia online Project)で構築中のバビロニア王碑文データベース、ならびにライデン大学で構築中の新バビロニア帝国ならびにアケメネス朝ペルシアの人物データベースを利用する。
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Research Products
(7 results)