2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J06536
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小風 尚樹 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
|
Keywords | 近代イギリス外交 / クラレンドン外相 / 天津条約改正交渉 / 政策決定過程における情報ネットワーク / 中国海域における海賊鎮圧 / イギリス海軍の旧式艦 / Digital Humanities |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、大きく分けて2つの課題に取り組み、成果を得た。すなわち、「イギリス外務大臣や海軍大臣の対外認識に着目し、欧米と東アジアの国際情勢を同時に比較する」という課題、そして「19世紀後半の中国海域におけるイギリス海軍政策の通時的分析」という課題である。 第一の課題については、第67回日本西洋史学会の自由論題報告にて、1860年代後半における天津条約改正交渉を対象に、イギリスの外相クラレンドンが、どのような政策方針を有していたかに着目した。手法として、イギリス外務省文書881番としてナンバリングされた(部外秘でない)公信集に基づき、公信の送り手や受け手となった組織・大臣・官僚といった人物情報を集積して、政策決定過程における情報ネットワークを可視化した。複雑な人物関係をネットワークとして可視化することで、省庁内のコミュニケーションに関する基本的な事実関係が示されるとともに、多様な解釈が可能になる議論の材料が提供されることがわかった。歴史叙述における可視化の可能性については、今後も慎重に検討していきたい。 第二の課題に関連して、修士論文に基づいた論文を上梓し、『軍事史学』53巻4号に掲載された。1860年代中国海域における海賊鎮圧のための「国際協力体制」なるものが、果たしてどの程度機能していたのか、という点について、軍事的・外交的観点から再検討したものである。 なお、関連研究成果として、Digital Humanities分野でも査読つき国際学会での口頭・ポスター発表などを得た。筆者は、国立歴史民俗博物館の「古代の百科全書『延喜式』の多分野協働研究」の研究協力員として、日本古代史の律令格式の施行細則『延喜式』のテキストデータベース構築に携わっている。このようなデータの作成・処理・分析技術は、今後歴史研究の分野でも無視しえない影響力を有するものであると考え、積極的に関与している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
日本西洋史学会での報告の発展課題として、クラレンドン外相の対外認識について探るべく、アメリカのハーバード大学図書館に所蔵されたクラレンドン関連プライベートペーパー(私信)の史料画像を取り寄せた。イギリスの外相が、東アジアの情勢にどこまで関心を抱いていたのかを探るべく、時期を限定せずに幅広く私信を渉猟したところ、19世紀半ばにおいて中国人苦力が南米のペルーに強制的に連行されていたことに対する抗議の念などがしたためられているなど、考察に値する材料を見つけることができた。しかしながら、やはり全体の私信における東アジア関連の情報の割合は非常に低く、欧米と東アジアの国際情勢の関連を探ることには慎重であらねばならない、と考えるに至る結果となった。 しかしながら、さらなる発展課題についての着想を得ることができたため、全体としては期待以上の成果を得たものと考えている。この課題については、次の項目で記述する。
|
Strategy for Future Research Activity |
『軍事史学』に掲載された論文に関連する発展課題として浮かび上がってきているのが、イギリス海軍の「旧式艦」の扱いである。今後は、中国海域でも、イギリス海軍の旧式艦が派遣、売却されて海域秩序の維持活動にあたっていたという史実に着目し、そもそも19世紀後半以降の軍事技術革新期において、イギリス海軍は財政的・軍事的に障害となっていたはずの旧式艦とどのように向き合っていたのか、という点を明らかにしたいと考えている。 この課題は、博士論文のテーマにもなり得る大きな論点であるため、次年度も引き続き検討していきたい。このテーマについては、すでに第60回兵器産業・武器移転史フォーラムにて研究構想を発表しており、次年度には論文を上梓したいと考えている。
|
Research Products
(8 results)