2018 Fiscal Year Annual Research Report
Economic policy research in health based on capability approach: methodology and theory
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17J06672
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
小林 秀行 慶應義塾大学, 総合政策学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | ケイパビリティ / 医療経済評価 / 個人厚生評価 / 医療資源配分 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、一元的な効用指標を用いた医療経済評価では療養者個人の多様な境遇を十分に捕捉できないという問題の解決のため、医療ケア面の視点と資源配分の適正化という経済政策面の視点を統合させた医療経済評価を構成し、医療資源を効率的かつ公正に配分する方法を実証的に探ることである。本年度は、医療資源配分における個人間差異の評価手法の検討を進めた。 公正で合意形成可能な医療経済政策に活かすためには、個人間差異の評価の際に整合性・完備性に配慮をする必要がある。そのためには個人間差異の詳細な検証が必要となる。医療経済学の測定・評価で広く行われてきた患者満足度調査を中心とする主観的評価は、個々人が固有の疾患・病態を有する臨床にあっては参照点(評価者の立ち位置)が異なるために、従来の個人に関する厚生評価指標は客観性が低いと言う問題があった。一方で、個人のケイパビリティ指標は非市場的情報を多く含むため、従来の当人による主体的評価がすぐれていると考えられる。以上の2点を鑑みて、本年度はこれまでに実施した実証研究の結果を用いて、社会的選択理論上の整合性・完備性の追求に耐えうる客観的位置相関的評価の方法を探求し、以下の3項について理論構築と実証分析を展開した。 1.達成された機能の療養者個人による位置相関的評価方法の確立 2.位置相関的機能の実証評価に基づく個人のケイパビリティ空間の推定 3.利用能力の個人間差異と医療資源の配分の実証分析
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.達成された機能の療養者個人による位置相関的評価方法の確立 療養者個人による評価から個人間差異が測定可能であるか、また、それにより測定される個人の財・利用関数は医療資源配分といかなる関係があるのかを検討した。位置相関性、つまり、参照点の異なる評価を一致させ客観性を担保する測定方法を検討する中で、個人の機能の達成状況の詳細な記述は評価視角の固定化を回避できるため、療養者の看護サービスに関する経験を通じて機能の達成状況を評価したところ、位置相関性をもつ測定がなされたといえる(第3回Cambridge Capability Conference報告参照)。 2.位置相関的機能の実証評価に基づく個人のケイパビリティ空間の推定 位置相関性を有する機能評価に基づいて、測定不能な利用能力を考慮した上で個人のケイパビリティ空間を推定する実証方法の検討を行った。機能の達成と利用能力の個人間差異との関連を詳細に検討した結果、財の総量の個人間差異が示された。次いで、財と利用能力の個人間差異を考慮して代表的個人のケイパビリティ推定方法を検討し実証評価を実施した。(第3回Cambridge Capability Conference、第4回国際保健学会議報告参照)。 3.利用能力の個人間差異と医療資源の配分の実証分析 配分された医療資源によって個人の自立機能達成のケイパビリティにいかなる影響を与えるのかについて、利用能力の個人間差異を考慮して実証分析を行った。在宅療養者においては、利用能力の劣る個人に多くの資源を分配することにより、利用能力の優劣によってケイパビリティに支配・被支配関係が生じていないこと、ただし、利用能力の劣った個人は自立支援のための社会サービス利用において自由を十分に享受していないことが示された(第22回国際看護哲学会、第19回国際看護倫理学会報告参照)。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は効率性・公正と合意形成を推進する医療経済政策の方法の理論的整理を中心に進める。これまでのケイパビリティ・アプローチの操作的定式化をめぐる理論構築と実証分析の中で、利用能力の個人間差異や現行制度・政策下における医療資源配分と個人のケイパビリティの実現が捕捉された。効率性・公正・合意形成の観点から、政策決定に向けて個人が権原をもつ財集合と、実現可能な利用関数の集合の拡大(Sen, 1985)をいかに進めるか、社会的選択理論を適用しながら医療経済政策のあり方を検討する。 効率性については、個人間の差異を尊重した上での医療資源の配分により、個人の実現可能な利用関数の集合の拡大や達成可能な機能の状況にいかなる影響が見られたか検証する。また、情報の非対称性が指摘される保健医療において、個人間の差異の尊重が効率性に及ぼす影響についても考察する。境遇の差異がある下での最大限可能な個人間比較可能性の捕捉を通じて、担保される公正について考察する。合意形成に関しては、ケイパビリティ指標の操作的定式化に社会的選択理論を適用した理論モデルの構築に取り組む。 医療資源の効率的かつ公正な分配と合意形成に資する医療経済政策の方法の確立に向けては、制度の比較研究により明らかにする。申請者が以前より共同研究を行っているスウェーデン(ウメオ大学)、英国(ブリストル大学、London School of Economics)の研究者らと共同研究を推進する中で、個人の財・利用関数・達成される厚生と医療資源配分と制度との関連を明らかにし、特に市民の合意を形成に向けた医療経済政策の方法論の理論的整理につなげる。以上により明らかにされる理論体系は、医療経済政策の方法を発展させることが期待される。
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Research Products
(4 results)