2017 Fiscal Year Annual Research Report
内臓型リーシュマニア症における貧血の発症機序の解明
Project/Area Number |
17J06910
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
森本 彩子 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
|
Keywords | Leishmania / macrophage / anemia / hemophagocytosis / spleen / don't-eat-me-signal |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、①in vitroでのLeishmania donovani感染MΦによる赤血球と非赤血球性因子の貪食能の測定、②in vitroでのL. donovani感染MΦの貪食/貪食抑制性受容体の発現解析、③L. donovani感染マウスの脾臓サンプルでの上記の受容体の発現解析を行った。 ①に関して、Leishmania原虫と共培養したMΦ株化細胞Raw264.7では原虫非存在下で培養したRaw264.7細胞と比べ、赤血球の取り込みは促進される一方でポリスチレンビーズの取り込みに変化が見られないことが分かった。このことから、原虫感染MΦで見られた赤血球貪食の亢進は赤血球特異的に起こっていることが示唆された。 ②に関して、感染MΦで赤血球特異的に貪食が亢進するメカニズムとして、感染マウスの赤血球に顕著な異常が認められなかったことから、MΦ―赤血球間の自己認識機構が正常に働かなくなっていると予想し、MΦが持つ赤血球の貪食を抑制する受容体に着目してその発現解析を行った。原虫と共培養したRaw264.7細胞では原虫非存在下で培養したRaw264.7細胞に比べ貪食抑制受容体の一つであるSIRPaの発現が低下することを確かめた。③に関して、培養細胞系で得られた結果を元に、L. donovani感染マウスの脾臓サンプルを用いてSIRPaの発現解析を行ったところ、原虫の重度な感染を受けた細胞では、SIRPaの発現が他の単球系の細胞より低下していた。以上の結果から、原虫感染MΦではSIRPaの発現が低下することにより赤血球を自己細胞と認識できなくなることで貪食が亢進していることが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、計画通りLeishmania原虫感染によるMΦ―赤血球間の自己認識機構の変化について実験を行うことができた。関係のあると思われる受容体を一つ特定できたことで、それを足がかりとして今後形成機序に関する分子学的な解析が可能になったことは重要である。他の関連する受容体の存在についても網羅的に解析を行っていく予定である。 一方で、年初に計画していたT細胞由来サイトカインの血球貪食の形成への関与について調べる目的でBALB・nudeマウスへの感染実験を行い、中和抗体・サイトカイン投与、T細胞の移入を試みたものの、中和抗体の安定的な供給、血中のサイトカインを高濃度に保つシステムや、移入実験の条件を確立することができなかった。 同様に、次年度の予定であったBALB/cAマウスへの血球貪食症候群治療薬の投与による貧血への影響の解析を今年度に回して先に行ったものの、薬剤のマウスに対する毒性が高く十分な期間の実験を行うことができなかった。次年度は最終年度であるため、実験に時間のかかるマウスを用いた実験について代替法の確立が急務であると考えられる。実際に、MΦ細胞株を用いたin vitro系において、感染誘導性の血球貪食亢進が再現されていることから、サイトカインの関与などについてはこの手法で代替できることが期待できる。 そのため、次年度は当初計画していた血球貪食を抑制することによる貧血の改善を示すための他の実験も行わずに、その前段階である原虫感染による赤血球貪食の機序を中心としてより詳しく解析していくほか、赤血球貪食が細胞内の原虫に与える影響に関する方面についても研究をすすめていく予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は、上記のとおり培養細胞系・すでに採取済みのマウス組織サンプルを用いて血球貪食の形成機序を中心に研究をすすめていく予定である。具体的には以下の実験を行う。 ①in vitroの原虫感染MΦと非感染MΦの貪食/貪食抑制受容体発現量をRNAシーケンスを用いて網羅的に比較する。感染後発現量が顕著に変動する受容体についてはL. donovani感染マウス脾臓サンプルにおいても発現を解析する。 ②上記で特定した遺伝子を欠損または過発現したMΦをCRISPR/cas9システムを用いて作成し、L. donovani感染による血球貪食に及ぼす影響を解析する。 ③血球貪食の形成に関連のある宿主側・原虫側因子の探索:培養細胞系を用いてT細胞由来のサイトカインの有無がL. donovani感染による血球貪食に及ぼす影響・MΦに原虫抗原を投与した際の血球貪食に及ぼす影響を解析する。 ④血球貪食が貪食MΦ内原虫の生存に与える影響の解析:培養細胞系を用いて赤血球の取り込みが細胞内の原虫の増殖・生存・MΦの活性に与える影響を解析する。加えて培養細胞系・L. donovani感染マウス脾臓サンプルにおいて赤血球が取り込まれた後の代謝産物・消化に関わる酵素の動態を調べ、同様に感染の成立、病態に与える影響を解析する。
|
Research Products
(3 results)