2017 Fiscal Year Annual Research Report
Transportation History in Post-Mongolian Eurasia and its Environmental Aspect
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17J06954
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
早川 尚志 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 交通史 / 環境史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は第一にポストモンゴル期、即ち14-17世紀の東トルキスタンの交通体制の変容について、同時代の現地発給文書群と外部の訪問者による旅行記・地理書などの多言語資料を考証することで、14-15世紀と16-17世紀における駅伝制の盛衰を明らかにした。本研究員は当該内容を国際学会1件と国内学会2件にて報告し、当該内容を論文化して国内学術誌に投稿した。 第二に、申請者は「14世紀の危機」の危機による世界システム変容時の同時代の気候変動について、歴史文献と科学データの照合によって復元を試みた。この際、まず地域性によるゆらぎの少ない太陽活動に注目し、13-17世紀の元史・明史に収録される関連記録をサーベイし、その成果を同時代の年輪・氷縞コアに記録された放射性同位体比と比較した。この結果、小氷期の危機とされる14世紀についても14世紀後半に太陽活動の大きな回復フェーズがあり、「小氷期」の始まりが「14世紀の危機」を引き起こし、世界的な王朝交代を招いたとする図式についてもより精密な議論が必要となることを定量的に明らかにした。 加えて、14-15世紀と16-17世紀の交通路の変容についても気候変動による要因を同時代史料から精査を始め、この時代の交通路の変遷が必ずしも政治的要因のみによって説明できるわけではないことを検証し、当該成果を国内学会で報告して、参加者との間で闊達な意見交換を行った。当該テーマは次年度以降、より詳細に検討されるべきテーマの一つと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は研究課題「ポストモンゴル期ユーラシア交通史と自然環境」については概ね堅実に進捗させ得たと考えられる。申請者は、まず14-15世紀に東トルキスタンの地を占めたチャガタイ・ウルス~モグール・ウルスの交通体制を現地で発給された通行証や供出命令文書、隣接地域の訪問者による旅行記や地理書等の同時代史料から多角的に考証・検討して復元を試みると共に、16-17世紀の同ウルスの交通体制との比較を行ない、その変容を確認した。この成果は国内外の学術集会で報告され、目下国内学術誌にて査読中である。 同時に同時代の環境変動についても研究が進んだ。今年度は気候変動の諸要因のうち特に局地性の少ない太陽活動にまつわる記録を、主に元史・明史の天文志、五行志、本紀などから検討し、年輪や氷縞コアの科学データと比較した結果、14世紀後半に大きな活動期が見られるのに対し、15世紀後半から16世紀前半にかけて太陽活動が特に低調になっていたことを検証して論文化した。また,他の年代(特に8世紀や18世紀)の太陽活動の記録を検討し、14世紀後半の元史や明史との比較も行ない、論文を計4報刊行した。このような試みは国内外で注目を受けるところとなり、英國やデンマーク等の研究機関でセミナーに登壇した他、国際学術誌の表紙論文への選定と掲載、News Week他での新聞報道に至るなど、国内外問わず各地での反響があったことが特記される。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はこれまでの研究を堅調に進展させ、東トルキスタンの交通体制の変容についての論文の刊行、およびに環境要因による交通路の変遷についての研究を引き続き堅調に進めたい。特に2018年度は英国にて在外研究を行うため、在外研究中の地の利を活かして、大英図書館、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学、フランス国立図書館などに所蔵される未公刊史料の収集に努め、史料数の制約の大きいポストモンゴル期ユーラシア中央域の交通体制や交通路の変容の解明に努めたい。 また、英国滞在中、同国の環境史の専門家との共同研究を行うことを企図している。これにより、以前未解明のところの多いポストモンゴル期の環境変動について、科学データと歴史文献の照合からその実情を明らかにすることができると考えられる。この際、特に同時代の環境変動が域内の交通路の変遷に及ぼした影響の評価を試みたい。 本年度検討したのは中国の正史であったが、より検討の確度を増すためにも複数地点での長期の環境変動の様子について、より長期にわたる均一性の高い史料の精査を行うことで、過去の気候変動及びそのバックグラウンドとしての太陽活動の変容について検討を深めることが可能と考える。また、英国滞在中に共同研究者との議論を通して、同時代の科学データの収集にも努め、歴史文献からの復元内容と科学データからの復元内容を照合していくことで、より解像度の高い過去の気候変動の様子を復元していくことができると考えられる。
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Research Products
(12 results)