2017 Fiscal Year Annual Research Report
18世紀を中心とした近世文学史の再構築―文理横断的視点から―
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17J07008
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
吉田 宰 九州大学, 人文科学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 西川如見 / 水土論 / 神道 / 蕃山学 / 後藤梨春 / 都老子 / 本草学 / 老子 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、以下の2点を中心に研究を進めた。①西川如見の水土論と神道思想、②後藤梨春『都老子』論―本草学と「老子」との連繋―。 ①について。西川如見(慶安元年~享保9年)は長崎の天文暦学者であり、天文暦学書はもとより、『町人袋』(元禄5年序、享保4年刊)や『百姓袋』(享保6年序、同16年刊)などの通俗教訓書も執筆した人物である。報告者は彼の水土論に関して、熊沢蕃山の学問受容に焦点を当て、考察を行った。その結果、如見が蕃山学の思想的中心である「時処位」の思想を受容し得た背景には、各々の土地の個別性を考慮して自然現象を把握する如見の天文暦学的姿勢と蕃山学の「時処位」の思想との両学問における、思考態度の共通性が関わっていることを明らかにした。 また、如見の神道思想については、先行研究で指摘される彼の儒家神道としての側面を認めながらも、如見が先祖崇拝における影像の使用を認めているという点では、ここに道教や善書からの影響があるのではないかと考えた。 ②について。後藤梨春(元禄15年~明和8年)は江戸の本草学者であり、『都老子』(宝暦2年刊)や『竜宮船』(宝暦4年刊)といった戯作も著した人物である。報告者が考察対象とした『都老子』は老子の思想を織り交ぜて書かれたものであるが、なぜ本草学者として活躍した梨春が老子の思想を受容したのかについては、従来その考察が不十分であった。そこで、報告者はその要因について、次のことを明らかにした。 第一に、本草学および梨春における、「名」と「物」との対応関係に対する認識が、老子の思想におけるそれと重なったこと。第二に、梨春の本草学的認識から派生した、「名」と「物」との対応関係における是非の相対化が、老子の思想における相対的認識方法と似通っていたこと。以上の共通性が、本草学者の梨春に老子の思想の受容をより容易にさせたのであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の研究実績の概要に関して、以下の研究発表や論文の投稿を行ったため、おおむね順調に進展していると判断する。 ①「西川如見の水土論と神道思想」(洋学史学会11月例会 ミニ・シンポジウム、口頭発表、2017年11月5日、於電気通信大学) ②「後藤梨春『都老子』論―本草学と「老子」との連繋―」(『雅俗』第17号、2018年7月発行予定、採録決定済、査読あり)
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Strategy for Future Research Activity |
上記の研究実績の概要に関して、以下の課題が残った。 ①について。西川如見に道教や善書からの影響があるのか否かについて、十分な考察が及んでいない。 ②について。後藤梨春は本草学者でありながら、『都老子』のほかにも『竜宮船』という戯作を著しており、彼の思想を考察する上ではこの著作も見逃せない。『竜宮船』を執筆するにあたっての知識の源泉、およびこの戯作が抱える版権上の問題、さらには梨春を含む本草学派のグループ内で本作がどのような位置づけにあったのかなどについて、さらなる考察が必要。 以上の課題を中心に、今後の研究を進めていく予定である。また、書肆銭屋の出版動向調査についても引き続き行っていく。
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