2018 Fiscal Year Annual Research Report
The Nyaya theory of argument: a historical study of its disputation with Buddhists
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17J07057
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
須藤 龍真 九州大学, 人文科学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | バッタジャヤンタ / 『論理の花房』 / ニヤーヤマンジャリー / ニヤーヤ学派 / 仏教論理学 / 討論思想 / Argumentation |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はバッタジャヤンタ(以下ジャヤンタ)著『論理の花房』「討論章」(第11章後半及び第12章)のうち「敗北の根拠」部分に相当する第12章後半の再校訂作業及び訳注研究を昨年度に引き続いて行った.集中的な校訂作業を通して諸写本の特徴や有用性の度合いを確認することができた.読解作業については,本年度読解を進めた「敗北の根拠」部分において,仏教論理学派のダルマキールティ著『ヴァーダニヤーヤ』が批判対象として挙げられており,『論理の花房』の読解と同時に,『ヴァーダニヤーヤ』及びそれに対するシャーンタラクシタ註,また,それらが前提としているニヤーヤ学派内部の諸文献の読解を同時進行的に進めた. 以上の基礎的研究の成果を基にして,本年度は以下の点から『論理の花房』「討論章」中の「擬似的理由」及び「詭弁的論駁」に焦点を当て,思想研究を行った. 1)ジャヤンタが『論理の花房』において言及する「引き起こさない理由」という第六の擬似的理由の分類は正統ニヤーヤ学派の学説からは逸脱するものである.この論理概念は「別の仕方で成立する理由」や「わきにあるもの」(upadhi)などと同様に,ニヤーヤ学派において推論上の必然関係の問題を解決するために導入されたものであり,これらの論理概念を概念史的に整理した.また,このような視点が後代のニヤーヤ学派の学匠ウダヤナにも引き継がれていることを指摘した. 2)誤った論難の事例が提示される『論理の花房』「詭弁的論駁」部分において,詭弁的論駁の使用のタイミングやその対象,論書における有用性が議論される.そのうち,当該箇所でジャヤンタが想定反論として挙げている見解とダルマキールティの『ヴァーダニヤーヤ』の内容とを比較検討した.また,ニヤーヤ学派内部における見解の相違が表出している点を整理した. 以上の研究成果は国内外の学会における口頭発表及び学術雑誌への投稿という形で報告した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の核となる『論理の花房』「討論章」の校訂及び訳注研究は当初の予定では本年度中に大まなか作業を終える予定であったが,同「敗北の根拠」部分の読解を進めるにあたり,関連文献の理解が不可欠であると判断し,複数の文献の読解を同時に行った.その結果,訳注研究の進度については予定より遅れが生じてはいるものの,関連文献の精読をともなう訳注研究の内容は充実しており,また,来年度前半にはこれらの校訂作業及び訳注研究も完了する見込みである. これらの基礎的研究に基づき,予定通り思想研究を進めることが出来たのと同時に,国内学会やヴァンクーヴァーで開催された国際サンスクリット学会での口頭発表などを通して情報交換や交流ができたのは,本研究課題の進展にとって大きな収穫であった.その他,『ヴァーダニヤーヤ』を始めとする仏教論理学関連の国内外の研究会への参加を通して,新たな知見を多く得ることができた. また,昨年度目標としてかかげた後代の新ニヤーヤ学派における討論思想関連文献の渉猟及び読解についても順調に進展しており,その対象を更にヴェーダーンタ学派やジャイナ教文献にまで拡充しつつある.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は『論理の花房』「討論章」全体の校訂作業及び訳注研究を完成させる予定である.現在,シャーラダー写本及びマラヤーラム写本を用いた校訂研究については大部分を完了しつつあるが,参照可能な写本全ての異読情報を網羅的に記録するには至っておらず,体裁等の統一も不十分であるため,これらの作業を次年度前半までに完了することを目標としている. 以上の基礎的研究に基づいて,次年度は『論理の花房』「討論章」について以下のような研究計画を予定している. 1) 先行研究において概念史的に十分に検討されてこなかった「曲解」という討論概念について,ニヤーヤ学派内部の議論を整理し,レトリックの観点における比喩的表現と討論術との関係について考察する.2)「詭弁的論駁」のうち,論理上は同じ形式をとる種々の詭弁的論駁について,ジャヤンタを始めとするニヤーヤ学派の論師達の分類方法とその討論概念上の妥当性について整理し,考察する.3)「敗北の根拠」に関して,『論理の花房』を主とする中世ニヤーヤ学派文献とその批判対象であるダルマキールティ著『ヴァーダニヤーヤ』等を比較考察する.これらの研究成果については国内外の学会及び学術雑誌にて発表する予定である. また,初年度より継続している『論理の花房』中の本研究課題と関連する章の校訂・訳注研究を引き続き行い,討論概念に関する実際的な言及がみられる後代の新ニヤーヤ学派,ジャイナ教,ヴェーダーンタ学派の討論思想文献について読解を進める.また,次年度は以上の研究成果に基づく博士論文を執筆予定である.そのほか,国内外におけるインド論理学関連研究会に参加し,近接分野の研究者との情報交換を積極的に行うとともに,現代哲学や議論学関連の研究会への参加を通して研究の領域を広げることを目標としている.
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