2017 Fiscal Year Annual Research Report
共同の音楽行為と全体主義――ドイツ青年音楽運動の文化史的検討を中心として――
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17J07157
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
牧野 広樹 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | ドイツ青年運動 / 青年音楽運動 / フリッツ・イェーデ / 共同性 / 音楽実践 / 音楽観 / ドイツ近現代史 / ドイツ文化史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、青年音楽運動における代表的人物であるフリッツ・イェーデの活動理念に着目し、その検討を本研究全体の軸として設定することを目指した。 まず、イェーデのヴァイマル共和国期における音楽観の変遷を、「共同性」という観点から分析し、論文「フリッツ・イェーデの音楽観における共同性: 共同の音楽実践とその目的設定をめぐって」に示した。この論文は、フリッツ・イェーデの音楽観に見られる共同性のあり方を、彼の著作の中にみられる「共在(Beieinander)」と「統一性(Einheit)」という二つの語をもとに考察したものである。本論文では、先述の二つの語を軸として、音楽実践に設定された目的が、初期には今日のコミュニティ・アートの理念へと繋がりうるような、多様性を担保した共同性を構築する要素を含みながらも、次第にドイツ民族の統合という社会的コンテクストへと収斂していく過程を示した。 また、イェーデをより広い社会的コンテクストに位置づけるための試論として、口頭発表「青年音楽運動における境界線の再編制―党派・宗派・家庭から民族へ―」を行った。この口頭発表では、ヴァイマル共和国期から第三帝国期への移行期に、イェーデがどのように青年音楽運動を位置づけ、その活動の継続を図ったかについて検討した。また、イェーデ以外の代表的人物を考察する足がかりとして、口頭発表「青年音楽運動における音楽実践の位置づけ――楽師ギルドを中心に――」を行った。この口頭発表では、イェーデとともに、彼が組織した楽師ギルドに関わる二人の活動家を取り上げ、三人が音楽実践に見出した社会的意義について考察したうえで、彼らの共通点・相違点について検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、青年音楽運動の思想的広がり、特にその内容や影響関係、思想潮流の系譜を、共同性という観点をはじめとして、多様な観点から明らかにすることである。そのためには、運動の総体的な評価を急ぐのではなく、個々の人物の著作や思考を追い、運動内部の活動家の布置関係を探ることで、青年音楽運動の全体像を明らかにせねばならない。 本年度は、本研究の軸となるイェーデのヴァイマル共和国期における音楽観を、共同性という観点から検討し、論文として発表することができた。また、イェーデを中心として構成された組織である楽師ギルドとかかわりのある人物について視野を広げ、青年音楽運動の広がりを検討し、口頭発表という形で提示することができた。 以上の理由により、本研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
青年音楽運動内の活動家の著作における様々な引用や言及などから、ヴァイマル共和国期だけでなく、第三帝国期、あるいは19世紀の思想潮流との関連のなかで、青年音楽運動を検討する必要があることが明らかになった。そのため、それらの系譜や影響関係も視野に含め、研究を進めていくことが必要と考えられる。 そのため次年度は、(1)青年音楽運動関連の一次史料の継続的な収集、(2)「共同性」のみにとどまらない様々な観点における青年音楽運動の思想的系譜の検討、(3)ヴァイマル共和国期から第三帝国期への移行期における青年音楽運動の歴史的推移、(4)青年音楽運動内の活動家における布置関係のさらなる検討、以上四点を中心に、研究を進めていくこととする。
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Research Products
(3 results)