2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J07402
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
井下 拓真 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
Keywords | 小脳 / シナプス可塑性 / 長期抑圧 / ノルエピネフリン / 片葉 / β型アドレナリン受容体 |
Outline of Annual Research Achievements |
神経細胞間の情報伝達効率が神経活動に応じて変化するシナプス可塑性は、学習や記憶の基盤であると考えられている。特に、小脳平行線維‐プルキンエ細胞間(PF-PC)シナプスの可塑性は運動学習との関係が注目されている。一方で、小脳におけるノルエピネフリン(NE)などの神経修飾物質が運動学習に寄与することも報告されている。しかし、PF-PCシナプスの可塑性とNEの間にどのような関係があるかはほとんど分かっていない。本研究では、NEがPF-PCシナプスの情報伝達やシナプス可塑性に影響を与えるか否かを明らかにすることを試みた。これまでに、視機性眼球反射(OKR)の適応時に小脳片葉のPF-PCシナプスで長期抑圧(LTD)が起こっていることを示した。また、ノルエピネフリン受容体のサブタイプの一つであるβ型アドレナリン受容体(β-AR)の片葉における活性がOKR適応に寄与することを示した。そこで、ホールセルパッチクランプ法を用いて、マウス小脳片葉切片からPF-PCシナプスの興奮性シナプス後電流(EPSC)を記録し、細胞外液にβ-AR作動薬であるイソプロテレノール(iso)や内因性のリガンドであるNEを投与した。その結果、isoやNEの灌流投与によってEPSCの有意な変化は認められなかった。また、比較的弱い脱分極刺激を与えてLTDの誘導を試みたところ、コントロール液中ではLTDを誘導しない刺激であっても、isoやNEそれぞれを含む液中ではLTDが誘導されることが分かった。以上の結果により、β-ARの活性は片葉のPF-PCにおいて、シナプス伝達に直接影響を与えないが、LTDの誘導を促進することが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、片葉のPF-PCにおいて、β-ARの活性がシナプス伝達に直接影響を与えないが、LTDの誘導を促進することを明らかにした。小脳モデル運動学習の一つであるOKR適応の制御に重要な役割を果たす片葉に注目して研究を行ったことが特徴であり、先行研究のOKR適応時のLTDの発現や、OKR適応へのNEの寄与に関する報告に対して矛盾しない結果が得られている。この結果は、これまでに分かっていなかった小脳におけるLTDとNEの関係について、片葉ではβ-ARの活性がLTD誘導の閾値を制御していることを示唆する重要な研究成果である。前年度までに得られた研究結果から生じた疑問に関して、先行研究の結果を踏まえて片葉に注目し実験を行い、興味深い結果を得られたことは評価に値すると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
まず、これまでに明らかにした「片葉におけるβ-ARの活性は、シナプス伝達に直接影響を与えないが、LTDの誘導を促進する」という結果が片葉のみで認められるか否かを明らかにする。そのために、小脳虫部の切片を作成し、細胞外液にisoやNEを投与して、PF-PCシナプスのEPSCやLTD誘導閾値の変化を調べる。また、NEを投与したときに認められた結果が、β-ARの活性によるものか否かを確認するために、β-AR拮抗薬とNEの混合液を細胞外液に投与し、同様の実験を片葉、虫部の切片において行う。β-ARはGsファミリーに属するGタンパク質共役型受容体であるため、β-ARの下流シグナルとしてプロテインキナーゼA(PKA)の活性が予想される。細胞膜透過性のPKA阻害剤が細胞外液に存在する条件で、isoやNAを投与し、PF-PCシナプスのEPSC変化やLTD誘導閾値を調べることで、LTD誘導閾値の制御に関わる細胞内情報伝達系の分子経路を同定する。また、細胞膜非透過性のPKA阻害剤を細胞内液に加えた条件で、isoやNEの投与を行い、同様の実験を行うことで、PF-PCシナプス後細胞であるプルキンエ細胞のβ-AR活性がLTD誘導閾値制御に必要か否かを検討する。また、isoとNEで異なる傾向が認められた場合は、β-AR以外のアドレナリン受容体のサブタイプについても実験を行いう。アドレナリン受容体のサブタイプは、β-ARの他に、α1、α2アドレナリン受容体の存在が知られており、それらの受容体の特異的な作動薬を細胞外液に投与して、PF-PCシナプスのEPSCやLTD誘導閾値に与える影響を調べる。これらの実験から得られた結果を合わせて、小脳におけるLTDとNEの関係について明らかにする。
|