2017 Fiscal Year Annual Research Report
難民生活における就学経験の長期的影響―国際移動するシリア難民のライフコース―
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17J07440
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
ガラーウィンジ山本 香 上智大学, 総合人間科学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | シリア難民 / 学校教育 / ライフコース / 紛争 / レバノン / ドイツ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、シリア難民の事例から、難民生活における学校教育の長期的な影響を、ライフコース分析により明らかにすることである。本年度は、ドイツとレバノンにおける現地調査による事例データの収集と分析を中心的な活動とした。その結果、以下の3点が明らかになった。 (1)ドイツにおける将来展望の形成と教育の役割:ドイツで学ぶシリア難民大学生の多くは、自立および自己実現を目指して難民化している。ドイツで受ける教育は、自身の自立と自己実現に至るまでの「問題」に対する「解決策」であると同時に、将来展望を形成するための希望をもたらしている。 (2)レバノンにおける教育への期待の低さ:一方、レバノンに住む学齢期のシリア難民やその家族の就学理由や将来展望には、消極的なものが目立った。将来展望が不明瞭なまま消極的な理由で就学を継続することは、就学者だけでなく家族全体に疲労感をもたらし、教育が希望とは逆行した影響を与えている場合もある。 (3)ドイツとレバノンにおける将来展望の差異:ドイツでは、現地社会と難民との間で文化・宗教的な差異が際立つことも多いが、長期的な滞在を見越した就学をとおして経年的に子どもの現地社会への統合が進んでいく。他方、レバノンでは文化的差異が比較的少ないにも関わらず、定住が目指されていないために、現地社会への統合の圧力も現れにくい。 以上3点より、ドイツでは自己実現までの道筋が見えやすく、自己実現と教育への期待が相互的に影響を及ぼしながら、シリア難民生徒・学生の将来展望を形成しやすくしている。その一方で、レバノンでは、子どもの具体的な自己実現の方法が見えにくく、教育の必要性が漠然としたままで、教育に対する期待も低い。レバノンの現地社会とシリア難民との間で文化的な摩擦は生じにくいが、就学をとおして統合が促進されるわけでもなく、将来設計に対する動機付けも得られにくいことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の活動として、計画段階では、フィールドワークは基盤づくりの予備調査のみ実施する予定であった。しかし調査協力者・対象者へのアクセスが予想以上に円滑に獲得でき、ドイツでは合計28名(シリア難民大学生、基礎教育就学者とその保護者)、レバノンでは合計34名(基礎教育就学者および不就学者とその保護者)の対象者に聞き取りを行なった。このことから、一定の結果を伴う調査を実施し、実証的なデータを得ることができたと言える。その結果、ドイツおよびレバノンにおけるシリア難民の生活・就学状況が明らかになっただけではなく、事例の比較をとおして演繹的に、難民生活にもたらす学校教育の影響について考察を加えられた。この点において、本年度の目標であった基礎データの収集以上の進展が認められる。 これらの研究にかかる成果は、国内学会発表2件(第28回国際開発学会(2017年11月・於東洋大学)、第36回日本国債保険医療学会西日本地方会ユースフォーラム(2018年3月・於ウィンクあいち))、ならびに国際学会発表1件(第14回英国教育開発国際会議(UKFIET:2017年9月・於オックスフォード大学))として公表され、各関係者から有意義なフィードバックを得ている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、本年度に得られた研究成果にもとづき、研究目的に沿ってさらに文献調査・資料収集を進めるとともに、とくに学術雑誌等への投稿をとおした研究成果の公表に努める。 今後の研究上の具体的な課題としては、主に以下の2点が挙げられる。 (1)フィールドワークを行なった2国の間で調査対象者に偏りがあった:本年度の現地調査では、ドイツでは大学生・大学院生を含む高等教育への就学者にも聞き取りを行うことができた。一方、レバノンにおいては、基礎教育就学者にしかアクセスできなかった。このことにより、両国におけるデータ上の差異が、調査地域の文脈による差異なのか、就学段階による差異なのか、正確に分析することが困難であった。調査結果をより正確なものとするためには、今後レバノンにおいても大学・大学院等の高等教育機関に就学しているシリア難民への聞き取りを行い、調査対象者の偏りを是正する必要がある。 (2)今年度の文献調査とフィールドワークを含む資料・情報収集によって分析できたのは、将来展望の形成過程に学校教育が及ぼす影響のみであった:今後のフィールドワークでは長期的に対象者のライフコースを追い、それと並行してライフコースの手法にもとづいて収集したデータの分析等についても先行研究レビューを進める。それにより、シリア難民の生活に及ぼす学校教育の影響について、調査対象者の特性を踏まえて考察を深める。
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Research Products
(4 results)