2018 Fiscal Year Annual Research Report
個人主義と市民的自律に関する社会理論的研究:フロムの共同体主義の展開に着目して
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17J07753
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
魚住 知広 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | エーリッヒ・フロム / 個人主義 / 大衆社会論 / 人間学 / エートス / 徳 / ナルシシズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主に、以下三点から研究を遂行した。第一に、昨年度に設定したトクヴィル以来の個人主義論の思想史的伝統について、ロバート・ニスベットのコミュニティをめぐる研究やそれを引き継いだ宇賀博の「社会学的ロマン主義」に関する研究など、社会学思想史での重要な先行研究を複数見出した。 第二に、個人主義論の思想史とフロムの思想の関係の検討である。具体的には、『自由からの逃走』におけるヤコブ・ブルクハルトとマックス・ウェーバーへの言及に着目した。ブルクハルトの個人主義の定式はウェーバーも参照しており、個人主義と内面的孤立いう問題系は資本主義論とも関係を持ち、ウェーバーの資本主義研究がフロムの思想に対してもつ重要性を把握することができた。フロムが資本主義の精神をフロイトの精神分析的性格学の類型である肛門的性格と親和的なものとして理解していることも興味深い。 第三に、フロムの方法論としての社会的性格論について検討し、その人間学的意義について検討した。フロムの社会的性格論は、フロイトの人間学やデューイの人間本性論への批判に基づいており、人間本性の歴史性に着目して「ダイナミクス」を捉えることを目指すものである。また、これは彼の方法論のみにとどまらず、後に展開する人間学の立場にも関係する重要な契機とみなすことができる。 これらの研究成果を踏まえ、個人主義という時代認識のもとで、それを適切に捉えるための人間学の理論という今後フロムの思想研究を進めていく上での指針がより具体的になったように思う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、本研究にとって重要な意味を持つ先行研究を複数見出し、またフロムの思想を読み解いていく上での見通しもある程度立てることができたため、一定の進捗を得られたように思う。
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Strategy for Future Research Activity |
時代認識としての個人主義とそれを踏まえて後期に展開した人間学、という観点からフロムの思想の体系を読み解いていくことが今後の研究の推進方策である。今後研究を進めていくために以下二点が重要と思われる。 第一に、大衆社会論をより大きな個人主義論の思想史的文脈に位置付けた上でその特質を理解したい。リースマンやミルズの大衆社会論で精神分析(及び社会的性格論)が方法論的に重要な役割を果たしていることは興味深い。特に歴史社会学を展開していたフロムがどのような必要性により精神分析を受容したのかに着目することで方法論的な意義について考察したい。また、シヴィックヒューマニズムの思想、特にマッキンタイアの「徳」に着目した分析も注目に値する。「性格」や「徳」「習慣」などの次元で人間を捉えることの方法論的意義について考察を深めたい。 第二に、フロムの人間学の体系を捉え、再構成することである。後期のフロムの思想で扱われるトピックは、愛、ナルシシズム、攻撃性、所有の志向性など多岐にわたるが、これらはいずれも人間学における基本的なテーマである。フロムは通俗的には素朴なヒューマニストとみなされる事も多いが、彼の問題設定を踏まえた上で後期の人間学の体系を再構成し、社会理論としての可能性を導出することを目指す。そのためにはフロイトの人間学への批判、特にナルシシズム論への批判が重要である。フロムがナルシシズムと利己心を区別していることにも着目し、それが彼の社会批判、特に資本主義社会に対する分析といかに関係しているかを理解したい。
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Research Products
(4 results)