2017 Fiscal Year Annual Research Report
ハロゲン化金属ペロブスカイト半導体の基礎光学特性の解明と光機能開拓
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17J07890
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山田 琢允 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | フォトンリサイクリング / ワイドギャップペロブスカイト / 有機無機ハイブリッド半導体 / 青色発光材料 / 励起子 / 発光励起分光 / 多光子励起 / レーザー分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
ハロゲン化金属ペロブスカイト半導体は、バルク結晶から多結晶薄膜やナノ粒子といった様々な試料形態のものを化学的手法で簡便に作製できる上に、非常に優れた光電変換特性を示す材料として世界的に注目を集めている。加えて、構成元素の組み合わせを変えることでバンドギャップエネルギーなどの光学特性を連続的に変化させられるため、太陽電池に限らず光検出器、発光ダイオードやレーザーなど様々な光デバイスへの応用研究も行われている。そのような光デバイスの高効率化のためには、ペロブスカイト半導体自身の光学特性を正しく理解する必要がある。 本研究ではハロゲン化金属ペロブスカイト半導体の基礎光学特性をレーザー分光法により解明することを目的としている。本年度では、ペロブスカイト半導体の光吸収特性や励起子構造を解明するために時間分解2光子発光顕微分光および発光励起分光システムの立ち上げと改良を行った。1光子および2光子励起を用いて測定を行うことで、ペロブスカイト半導体のバンド端近傍特性を明らかにした。得られた1光子および2光子発光励起スペクトルは、単結晶では薄膜に比べ複雑な振る舞いを示していたが、すべてフォトンリサイクリングを考慮することで説明できた。特に、CH3NH3PbCl3は室温でも励起されたキャリアは励起子として振る舞いながら、フォトンリサイクリングも起こしていることを初めて明らかにした。これは従来の半導体では見られないような非常にユニークな特性である。同時にCH3NH3PbCl3が非常に高い発光効率を持つことを意味し、新しい青色発光材料として高いポテンシャルをもつ材料であることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度では主に3種類のペロブスカイト半導体CH3NH3PbX3 (X = I, Br, Cl) の基礎光学特性を①時間分解2光子発光顕微分光、②発光励起分光を用いて研究することを当初の目標とした。 まず①については、計画よりも早く実行できたため、29年度中に論文出版できた。また、ハロゲン依存性については、ワイドギャップになるほど短い発光寿命が得られた。これは輻射再結合の理論結果と矛盾しないものである。また、励起直後の発光強度の励起強度依存性から、室温においてCH3NH3PbI3やCH3NH3PbBr3では励起キャリアは自由キャリアとして振る舞い、CH3NH3PbCl3では励起子として振る舞うことが分かった。 次に②について、まずは測定系の開発を行った。特に、励起光の波長を掃引しながら発光スペクトル測定を行う必要があるため、それらの同時制御プログラムを開発した。また、これまでの研究から光学的に厚い単結晶試料ではフォトンリサイクリングの影響が非常に大きいため、薄膜試料による比較実験が必要と考えた。ただし、従来の方法で作製された薄膜では励起光の散乱が強かったため発光励起分光測定が困難となっていた。そのため、作製手法を工夫して面内均一性の高い薄膜試料を新たに作製した。実験結果から、ペロブスカイト半導体では自由キャリア(CH3NH3PbI3やCH3NH3PbBr3)または励起子(CH3NH3PbCl3)に関わらず、フォトンリサイクリングを起こすことが分かった。特に、励起子かつフォトンリサイクリングを起こすという半導体は今までになく、ペロブスカイト半導体のユニークな光学特性を明らかにし、発光材料として高いポテンシャルを持つことを示せた。 以上の理由から、本年度までの研究は、おおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画として、まず、フォノンとの相互作用効果などを研究するために、温度依存性の測定などが行えるように光学測定システムおよびデータ解析のプログラムを作成・改良を行う。また、発光強度の励起強度依存性をバンド端近傍で励起エネルギーを走査しながら測定することで、励起プロセスの移り変わりをモニターする手法を開発する。これらの手法を活用し、ペロブスカイト半導体のバンド端近傍の光学特性をより詳細に研究する。 特に、今後は輻射冷却を見据えた研究を行っていきたい。これまでに行ってきた発光励起分光測定から、ペロブスカイト半導体ではバンドギャップエネルギーよりも少し低いエネルギーで励起したときも、フォノンを介してバンド端にキャリアを生成し、そのままバンド端で光るアンチストークス発光が効率的に起こることが分かった。この現象は光冷凍機という、光検出器でも発光デバイスでもない新たな光機能の可能性を開くものである。ペロブスカイトの輻射冷却を研究するために、まずは発光励起分光で得られるアンチストークス発光の解析から輻射冷却可能性を評価する手法を開発する。また、熱的に独立させたペロブスカイト半導体を用意し、実際に輻射冷却実験を行う。具体的には冷却用のレーザーを当て続けながら、その温度変化を観察する。ペロブスカイトの温度は発光のピーク位置やラマン分光を用いて評価することを考えている。得られた実験結果をまとめ、ペロブスカイト光冷凍機の可能性について評価する。
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Research Products
(12 results)