2017 Fiscal Year Annual Research Report
戦後日本の台湾観-台湾引揚者の視点から(終戦直後から2000年代まで)
Project/Area Number |
17J07916
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
周 俊宇 早稲田大学, 政治経済学術院, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
Keywords | 台湾 / 引揚者 / 日華関係 / 日台関係 / 帝国意識 / 植民地支配責任 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、第二次世界大戦の終焉直後から台湾の民主化が完成し、それと同時に日本の主流認識における台湾への関心が顕在化した2000年代までの、日本における台湾引揚者の台湾観を検討することにある。主要な課題は、下記の4点が挙げられる。(一)戦前の在台日本人が戦後に引揚者になった心境の変化。(二)台湾引揚者の立場からみた日華・日台の二重関係。(三)台湾引揚者の階層・世代などの内部的観点の相対化、及び戦後日本の主流認識との違い。上記の考察を通して、戦後日本人の帝国意識の変容や植民地支配責任などの課題に新しい知見を提供するほか、(四)台湾引揚者を中心とした日台交流が台湾人アイデンティティや日台関係へ与えた影響についても検討を試みる。 本年度の主要な成果としては、まず台湾引揚者団体の機関紙を対象に、終戦後から日華断交までの時期を中心に、関連する記事を調査・分析したことが挙げられるが、現段階では、下記の論点が見えてきている。(1)これらの記事から、大手新聞や総合雑誌と異なる彼らの関心・観点を発見した。たとえば、国民党政権から寛大な対処を受けたためか明らかな批判は行わないものの、戦後台湾社会の置かれた状況に理解・同情を示す情念深い記事が多く見受けられた。(2)1963年に複数の台湾引揚者団体が台湾協会に一本化されるが、それ以前のそれぞれの機関紙において、日台(華)関係や引揚者の処遇について異なる関心や立場がみえる。 本年度の業績として、2017年11月に台北で開催された国際学術会議での発表「日本統治下台湾人民族性「利己主義」をめぐる言説の諸相と展開(領有初期~1920年代)」が挙げられる。このテーマは戦前・戦後日本人の台湾観の連続性・非連続性という視点から本研究と一貫性がある。なお、本論文は韓国東北亜歴史財団の論文集に掲載されることが決定しており、2018年中に出版される予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、(a)戦後日本引揚史の関係図書や研究論文を入手し、戦後の引揚過程や引揚者団体の成立経緯などの状況を抑えた。(b)戦後日本における台湾引揚者団体の各刊行物を中心に調査・収集を実施し、本研究に使う文献・記事について目録の作成と内容分析を行った。(c)九州に研究出張を行い、福岡や熊本にて日本全体や台湾関係の戦後引揚資料を調査・収集した。(d)台湾に研究出張を実施し、台湾の各図書館で所蔵される史料や研究論文などについて文献調査を実施した。(e)台湾大学大学院文学研究科歴史学研究専攻と韓国東北亜歴史財団の共催による東アジア歴史研究フォーラム国際学術会議国際シンポジウムに出席し、研究報告を行った。よって、本研究は順調に進展していると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、本年度の課題に引き続き取り組むほか、研究範囲をさらに日華断交以降に拡大していくが、下記の点は研究の方向性として考えられる。(1)台湾引揚者として戦後日本の各分野で活躍をみせた人物に関する記事も少くないが、それらが彼らの軌跡や日台関係で演じた役割を探るには、非常に有益な材料になる。(2)校友会を中心として、日華断交後に成立した台湾引揚者団体とそれに伴って発行が始まった機関誌も数多くあることを確認したが、それらの団体の性格と役割を検討する必要がある。 なお、台湾引揚者のライフヒストリー・引揚状況・日台交流の実態などに迫るため、台湾引揚者団体の関係者にインタビュー調査を実施する予定だが、首都圏以外、熊本・鹿児島などの地方も検討している。特に戦前の在台日本人には実際、熊本出身者が多く、戦後の引揚者団体の中でも熊本は比較的活動の多い地方である。本年度は熊本出張の際に基本的な資料を入手したが、今後地元の引揚者団体と連絡を取りながら、聞き取り調査を行いたい。 以上述べたことを通して、本研究の大きな軸である(一)戦前の在台日本人が戦後に引揚者になった心境の変化。(二)台湾引揚者の立場からみた日華・日台の二重関係。(三)台湾引揚者の階層・世代などの内部的観点の相対化、及び戦後日本の主流認識との違いをさらに掘り下げ、台湾引揚者団体による台湾観の全体像を把握したい。
|
Research Products
(1 results)