2018 Fiscal Year Annual Research Report
近代イギリスの改革運動における政治文化とアイルランド移民
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17J08142
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小西 正紘 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 穀物法 / 政治文化 / 移民 / 反穀物法同盟 / 自由貿易 / 19世紀イギリス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、穀物法撤廃運動の分析を通して、「改革の時代」におけるイギリスの政治文化をアイルランド移民との関わりから明らかにすることである。本年度は、反穀物法同盟が自由貿易の理念を全国に普及した様々な回路のうち、講演会活動を具体的な分析対象とした。具体的な成果は以下の二点である。 (1)講演会データベースの作成。反穀物法同盟の講演会に関する基礎情報を、次の三種類の史料から明らかにした。第一に、反穀物法同盟の機関紙は、各地での講演会の情報をほぼ毎号報道しており、最も多くの情報を得ることができた。そこで第二に、The British Newspaper Archiveという電子リソースに収録されている地方新聞を調査することで、機関紙では扱われていない講演会の情報を拾い上げた。最後に、講演会を実施した講師たち自身から反穀物法同盟本部に当てられた手紙を調査した。これらの手紙は、講師自身の声に加え、旅先での生活の様子など、必ずしも機関紙には記載されない情報を知る上で有益であった。 (2)講師の事例研究。反穀物法同盟は少なくとも13名の講師を雇用していたが、本年度はジョン・フィニガンという人物を取り上げて事例研究に着手した。というのも、フィニガンはマンチェスタに在住していたアイルランド人の移民労働者であるため、本研究を遂行する上で注目に値するからである。フィニガンは1839年から1845年までの間に、イングランド北部の工業地域、イングランド中部と南西部の農業地域、およびアイルランドのダブリンとコークでの講演活動に従事していた。フィニガンの活動は、アイルランド人移民がイングランドの政治運動に関与してく過程を明らかにするだけでなく、19世紀中葉のイギリスにおける自由貿易をめぐるポリティクスを草の根の次元から明らかにする上でも重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
講演会活動の分析を量的側面と質的側面に分けた場合、本年度は量的側面の分析を完了させることができた。具体的には、上記(1)で述べたデータベースの作成であり、合計で1675件のデータを収集した。このデータの分析も遅滞なく進展しており、具体的成果を第69回西洋史学会で報告する予定である。 他方、質的側面の分析に関しても、上記(2)で述べた講師個人の活動という観点から、ある程度進めることができた。後者に関しては次年度の重点課題とする。
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Strategy for Future Research Activity |
講演会の質的分析を重点課題とし、これらがヴィクトリア朝の政治文化において果たした意味を考察する。この際、次の二つの観点を重視する。 第一に、政治動員を目的とする講演会は普段必ずしも政治的に積極的ではない人々が政治に関わる回路を提供した、という点である。講演会とは、講師が発する言葉や身振りを含む演説の技法、聴衆の反応などが交錯する、いわばシンボリックな政治的意思伝達の場に他ならない。したがって、講演会の質的分析は、人々の政治に対する行動様式を、議員や文筆家たちとは異なる角度から明らかにする作業の一端を担っていると言える。 第二に、そのような性質を持つ講演会が、反穀物法の手によって連合王国全体で開催された点である。反穀物法同盟が雇用した講師にはイングランドだけでなくスコットランド、アイルランド、ウェールズの出身者もおり、活動領域もこれら4地域全体に及んだ。彼らの活動は、単に穀物法撤廃という大義を普及しただけでなく、講演会という政治文化を連合王国全体に広めることにも貢献した。中でも連合王国の穀物供給地の一つであったアイルランドにアイルランド人移民の講師が到来したことは、同地の農業のあり方に関する議論を引き起こした。 以上を念頭に置きながら、本年度は下記のような計画を立てて研究を進める。まず、上半期には、一次史料の読解を通じて講演会の質的分析に必要な情報を収集する。具体的には、反穀物法同盟の機関紙、講師による書簡、その他の地方新聞である。次に、下半期には、講師を雇った側の人々について分析する。具体的には、リチャード・コブデンおよびジョージ・ウィルソンの書簡集を調査する。これらの史料は、講演会がどのような構想のもとで開かれたのかを明らかにできる点で重要である。
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Research Products
(2 results)