2018 Fiscal Year Annual Research Report
二者の脳機能同時計測系を用いたコミュニケーションの神経メカニズムの検討
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17J08172
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
吉岡 歩 名古屋大学, 情報学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 共同注意 / 好み / fMRI / 二者同時計測 / ハイパースキャン / 脳活動同期 / 社会的相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
他者とのコミュニケーションの基盤として,二者が一つのものに注意を向ける共同注意が重要な役割を果たしている。昨年度は,二者が呈示された物体に対する嗜好や親密度といった自己の内的な情報に注意を向ける内的な共同注意と,物体そのものの特徴に注意を向ける外的な共同注意を比較するfMRI実験を実施した。従来の共同注意研究では,二者が同じものに注意を向ける段階の脳活動が主に検討されてきたが,その後二者で何に注意を向けたかを確認する段階については検討されていなかった。そこで今年度は,注意を向けたものについて二者で意見を伝え合う確認段階の神経基盤について検討した。内的共同注意課題では,被験者の主観的な情報について互いに意見を伝え合うため,意見の一致,不一致の要因と,二者のうちどちらが先に発言をするかという発言の順序の要因に分け,他者に同意する条件,他者から同意される条件,他者に異なる意見を告げる条件,他者から異なる意見を告げられる条件のそれぞれについて詳細に神経基盤を検討した。 解析の結果,内的共同注意の他者に同意される条件では,前頭前野―前部帯状回,左側頭回,左角回,後部帯状回―鳥距溝,尾状核,小脳の活動が,他者から異なる意見を告げられる条件では,これらの領域に加え,左下前頭回,左前部島,左扁桃体に活動が確認された。他者に同意される条件では,他者と嗜好が一致することが報酬となり,線条体が活動したと考えられる。一方,他者から異なる意見を告げられる条件では,他者との意見の不一致という社会的文脈における否定的な事象に対してネガティブな感情を喚起されることで,扁桃体や前部島が活動することが示唆された。これら個人の脳活動の解析に加え,二者の脳活動の同期について検討した結果,実際に課題を実施したペアの方が擬似ペアと比較し,課題中の右の側頭―頭頂接合部と上側頭溝の脳活動の同期が高まることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまで実施してきた機能的MRIの二者間の脳活動同期の解析では,課題関連の脳活動を取り除いた残差時系列データを用いて,各被験者ペアでボクセルごとに相関係数を算出してきた。本実験では,1秒ごとに全脳をスキャンしたため,2.5秒ごとにスキャンしていた従来の実験と比較し,データ量が大幅に増加した。そのため,同期の解析に想定より時間を要し,当初の予定よりも若干遅れが生じている。本年度は,多角的に脳活動の同期について検討するため,新たな同期解析を実施するが,この解析と並行して次の実験に向けた準備することで,スケジュールの遅れを取り戻す予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの同期解析では,課題関連の脳活動を取り除いた残差時系列データを用いて二者の脳活動の同期を検討してきた。今後は,課題関連脳活動の指標であるβ値の時系列データの相関係数を計算することで課題関連脳活動の同期を検討する。このために解析のデザインを変更し再解析を行う。課題中に二者が相互作用し,試行ごとに行動や脳活動がそれによって調整を受けているならば,実際に課題を実施したペアでは,擬似ランダムのペアと比較して脳活動の相関が高くなると考えられる。これにより,課題を実施している際の二者の相互作用による調整を,課題に直結した脳活動の側面から検討することができ,これまで行った残差時系列データの同期解析と比較することで,コミュニケーション中の二者の脳活動の同期を,より多角的に比較することが可能となる。これらの解析が完了し,結果が出揃い次第,論文を執筆する。論文は国際雑誌に投稿し,研究で得られた成果は,国内学会および国際学会で発表する。これと並行し,脳活動の同期と二者の関係性や行動の結果との関連を検討するため,新たな実験を行う。
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