2017 Fiscal Year Annual Research Report
Reconsideration on the 19th Century German Philosophy: From the Viewpoint of Development of Criticism and its Significance.
Project/Area Number |
17J08375
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
太田 匡洋 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | フリース / ショーペンハウアー / ネルゾン / 近世ドイツ哲学 / 新カント学派 / 超越論哲学 / 哲学方法論 / 一元論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、19世紀ドイツ哲学史における批判主義の徹底化の系譜の再検討であり、より具体的には、(1)J.F.フリースの哲学の解明と再評価、(2)A.ショーペンハウアーの哲学の再構成、(3)以上を踏まえた19世紀ドイツ哲学史の再検討、の三つの柱からなる。本年は、おもに「哲学方法論」の問題へと着目することで、各々へのアプローチを試みた。
(1)フリース 「理性批判」の諸問題に主眼を置いた研究を行った。現代にいたるフリース理解の基本線をなしているのは、ヘーゲル学派のクーノ・フィッシャーがフリースに対して行った一連の批判である。フィッシャーはフリースの立場を「理性批判が探究するものはア・プリオリだが、探究それ自体はア・ポステリオリである」というテーゼに集約したうえで、「ア・プリオリな原理はア・ポステリオリには認識されえない」と主張することでフリースを斥ける。そこで本研究では、フィッシャーによる批判への応答を行うことで、フリースの哲学的立場の独自性に光をあてた。 (2)ショーペンハウアー 第一に、ショーペンハウアー哲学の方法論を主題的に取り上げた。とりわけ本研究では、上記の研究課題を視座として設定することで、従来看過されがちであったショーペンハウアー哲学における哲学方法論の意義を、フリースとの関わりにおいて捉えなおすことを試みた。第二に、ショーペンハウアーの倫理思想についても研究を行い、主に「想像力」が倫理学において果たす役割へと着目することで、彼の「想像力」概念に認められる従来看過されてきた側面へと光を当てた。 (3)19世紀ドイツ哲学史 ショーペンハウアーとフリースが位置する19世紀ドイツ哲学史の思想的布置に対して、上記の哲学者ごとの研究に加えて、おもに概念史的な視点を設定することで、従来看過されがちであった哲学史的側面へと光を当てることを試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上に示した三つの主題について、下記の通り、概ね計画通りに課題を遂行した。
(1)フリース 本研究では、ネルゾンに代表される従来のフリース研究のもつ問題点を指摘するとともに、フリース自身における思想の発展に着目することによる応答を行った。フリースは主著『新理性批判』以降になると、「ア・プリオリな原理」の担い手としての「理性」と、それを発見する主体である「思惟的な反省能力」としての「悟性」のあいだの区別を強調することで、「ア・プリオリな原理」の成立可能性を模索するようになる。この事実へと着目することで、「哲学すること(philosophieren)」の射程と方法を主題的に扱うという、従来看過されがちであったフリース哲学の独自性が明らかとなった。 (2)ショーペンハウアー 第一に、「帰納」概念の位置づけの変遷に着目することで、哲学方法論に関する諸概念の洗練化の過程と、そのフリースからの影響を指摘した。さらに、「抽象」という方法論をめぐるフリースとのあいだの親近性を明らかにすることで、ショーペンハウアー哲学の方法論の狙いを見定めるための新たな視座を切り開いた。第二に、彼の「共苦」および「良心」に関する記述を手掛かりとして、「想像力」の変容の可能性が認められていることを指摘した。これによって、彼の倫理思想が含意する「哲学すること」との関わりを明らかにするための着手点が得られた。 (3)19世紀ドイツ哲学史 「一元論(monism)」概念の用例史の検討を通じて、フリースにならぶカント主義者であるヘルバルトから、ロッツェ、ハルトマンを経て英語圏へと至る思想的潮流の一端へと光を当てた。また、J.レマンスキーによるヴィトゲンシュタインとショーペンハウアーの比較研究の紹介と検討を通じて、分析哲学史におけるショーペンハウアーおよび19世紀ドイツ哲学史の位置づけを見直すための視座がもたらされた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果を踏まえて、今後は哲学方法論と哲学体系のあいだの関係を扱うことで、フリースおよびショーペンハウアーの哲学プログラムの全体像へと光を当てるとともに、これを踏まえて、引き続き19世紀ドイツ哲学史の再検討を行うことを目指す。具体的には、以下の課題の達成を目標とする。
(1)フリース (A)真理感情、(B)物自体、という二つの概念に着目して、哲学方法論と哲学体系のあいだの接続関係へと光を当てる。 (A)フリースは、哲学的探究を支える契機として、上述した論点に加えて、「真理感情」という概念を導入する。本研究では、時期に応じた本概念の発展から、フリース哲学の企図の捉え返しを試みる。 (B)上述の哲学方法論の帰結として、フリースは特に主著以降になると、哲学的な諸認識の種類を、「知識」「信仰」「予感」の三種類へと区分するが、その帰結として、「物自体」に関する記述に両義性が認められるようになる。従来は「物自体」を容認する記述にのみ着目がされてきたが、その反面、「真理」概念との関連においては「物自体」を否定する旨の記述も認められる。本研究は、この「物自体」概念の両義性のうちに、フリースによる「物自体」概念の換骨奪胎の試みと、ドイツ観念論に対する批判的論点の指摘を試みる。 (2)ショーペンハウアー 哲学方法論を取り扱った前年度までの研究成果を踏まえて、「物自体としての意志」を原理とした形而上学と、哲学方法論のあいだの接続関係を取り上げることを目標とする。そのための着手点として、「主観‐客観‐関係」に基づく認識論から「物自体としての意志」を原理とした形而上学への移行へと焦点を当てることを目指す。 (3)19世紀ドイツ哲学史 上記の研究を踏まえて、従来の哲学史記述の見直しを目指す。また、これまでの成果である「一元論」概念の研究についても、さらなる展開を試みる。
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Research Products
(13 results)