2017 Fiscal Year Annual Research Report
メディア技術環境におけるライヴ・パフォーマンスの歴史的・理論的研究
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17J08384
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
ブロイ セバスチャン 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | メディア技術 / 身体性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、歴史的事例の分析と理論的考察を通じて、今日のテクノロジー的条件における身体性・ライヴ性とパフォーマティヴィティを理解するための理論的枠組みを提示することである。メディア論とパフォーマンス理論の統合を試みる本研究には、人間/機械の二項対立に陥りがちなデジタルメディア環境の歴史への新たな展望を開くと共に、偏在化しつつあるデジタル環境において、身体を中心とする文化的表現がどのように変化してきたかを解明できるという意義がある。 当該年度は、当初の研究実施計画の通りに全史研究および理論研究を行い、その成果を学会で発表した。表象文化論学会・第12回大会のパネル「人新世/アントロポセンと人文科学」で行われた発表においては、エドムンド・フッサールの『ヨーロッパ諸学の危機』における「直観」概念を手がかりに、デジタル技術の原点となったアラン・チューリングの仕事(計算可能性理論)を分析し、とりわけ「アルゴリズム」の機械化を可能にしたチューリング機械の創案が、もともと身体に「機械的」と思われる行動を要請した工業化社会の背景に根ざしていることを指摘した。つまり計算機は、人間の身体感覚を排除する歴史の上で成り立ってきたものであり、この身体性の排除は、現在に至る「情報化」社会論の言説においても顕著となっている。 理論研究の実施としては、2017年8月から9月にかけてドイツへ渡航しアーカイヴ訪問を行なった。ドイツ文学資料館(DLA Marbach)への滞在訪問では、本研究の先行研究として重大な意義をもつフリードリヒ・キットラーの仕事をめぐり、未公開のアーカイヴ資料(個人的な文書など)を発見した。肉体の現象学をめぐるエッセイ、または機械装置の設計図を含むそれら資料は、キットラーのメディア論の形成史にとって示唆的であり、現在執筆中の博士論文には、それら資料を活用する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究実施計画の通りにメディア技術環境における身体性とパフォーマティヴィティをめぐる先行研究・全史研究を整理することができた。問題の核心をなすデジタル技術環境の歴史に関して新しい観点を開くことができ、その研究の成果を学会発表によって発信することができた。なお、本研究の理論的基盤をなすキットラーのメディア技術論について、未公開のドキュメントを発見し、メディア論とパフォーマンス論の統合に向かっての重要な一歩を踏み出すことができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には当初の計画通り、資料の収集・整理を継続するとともに、サイバネティクス・デジタル技術環境の発展史をさらに探求する予定である。パフォーマンスとメディアにおける「相互作用」と「フィードバック」概念に関する通史的研究を行い、博士論文の理論的枠組みを完成させる。5月末にはベルリン・フンボルト大学・メディア研究科での滞在リサーチを経て、本研究の成果についての発表とディスカッションを計画している。当初の研究計画ではロイファナ大学リューネブルクへ滞在すると述べたが、これをフンボルト大学へ変更した次第である。
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Research Products
(2 results)