2017 Fiscal Year Annual Research Report
Interfaces between synchronically marginal sound patterns and diachrony
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17J08493
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Research Institution | National Institute for Japanese Language and Linguistics |
Principal Investigator |
松井 真雪 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 理論・対照研究領域, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | Prosody / Articulatory phonetics / Acoustic phonetics / Auditory phonetics / Tonal clash / Neutralization |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、音韻対立の消失・出現・転換の背後にある音声産出と知覚機構を解明することを目的とする。平成29年度は3カ年計画の1年目にあたる。 平成29年度はまず、4月から5月に、東京において日本語東京方言のプロソディーに関する産出実験と知覚実験を実施した。この調査においては、発話の音調を構成するトーンイベントが物理時間的制約によって近接する条件 (tonal clash context) において、話者がどのように音調を変化させ、聞き手はその音調をどのように知覚処理しているのかを検討した。Tonal clashを扱う先行研究の多くは、語用論的な意味の伝達に関わる文のプロソディー同士の近接に着目しているのに対して、本研究は、文のプロソディー (疑問文に生じる上昇イントネーション) と語のプロソディー (語彙的ピッチアクセント) が近接する条件を検討し、プロソディー対立の中和の議論へと発展させた。 2017年9月より研究拠点をカナダのトロント大学に移し、調音音声学研究を遂行した。具体的には、トロント大学の音声学者と共に、調音音声学の研究手法であるUltrasound、Electroglottography (EGG)、Electropalatography (EPG) を組み合わせた音声学実験を計画した。Ultrasoundとは、口腔内部の調音器官の動きや形状を可視化するための研究手法である。EPGとは、調音時の上顎と舌の接触部の形状や接触時間などを記録するための研究手法である。EGGとは、声門の開閉の度合いに関する特徴を記録するための研究手法である。当初はロシア語母語話者の音声パタンのみを検討する予定であったが、通言語的な議論を可能にするために、ロシア語母語話者と英語母語話者の音声パタンを対照する実験計画に改訂し、年度内に予備実験を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、年度前半に、東京方言のプロソデイ一に関する音声資料を収集し、研究成果を、2件の国際学会において発表し、1編の国内論文として年度内に出版した。 年度後半には、カナダのトロント大学においてロシア語の分節音パタンに関する調音声学研究を進めた。「研究実績の概要」の欄に記載したように、UltrasoundとEGG、EPGを用いた音声研究を計画した。共同研究者との議論が発展したことによって、当初予定されていなかったEGGとEPGを導入することが可能となった。本格的な実験は、次年度に実施される予定であるが、平成29年度内に新しい研究手法の習得と予備実験を終えることができた。この他に、調音音声学に関する学会発表を2件おこなった。また、ロシア語の舌頂閉鎖音 (/t, d, tj, dj/) における有声性対立と硬口蓋化対立の相互関係に関する研究結果をとりまとめた。 上述の研究成果の他に、ロシア語の有声阻害音の無声化の音声産出と音声知覚に関する論文2編が年度内に出版された。また、2017年5月にロシアの学会の招待を受け、ロシア語に関する研究成果を現地社会と積極的に共有することに努めた。 以上の研究実施状況を考慮すると、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究実施状況を踏まえ、今後 (特に、次年度) の研究推進方策を2点挙げる。 第一点目の推進方策は、現在進行中のロシア語の子音の対立、対立弱化、対立転換パタンに関係する研究結果を世界のより多くの人にとって有用な形で還元することである。平成29年度は、調音音声学実験の実験デザインや分析手法の習得、実験準備に多くの時間を費やした。したがって次年度は、それらの具体的成果を学術社会そして一般社会に広く還元していくことに注力したいと考えている。研究成果を学術社会に還元するために、少なくとも、現在査読・出版手続き段階にある3編の論文をもれなく出版する。さらに、執筆作業中の2編の論文を少なくとも平成30年度に国際誌に入稿し、査読審査を受ける。これらに加えて、一般社会への貢献として、超音波撮像装置を用いた研究アウトリーチ活動を少なくとも一件実施する。 第二点目の推進方策は、研究テーマに含まれている、音韻対立の「出現」および「転換」に関する理解を進めることである。平成29年度は、日本語東京方言プロソディーの事例研究を通して、音韻対立の「消失」に関する問題を主として取り扱った。したがって、次年度以降は「出現」と「転換」に関係する問題を中心に取り組む予定である。より具体的には、音韻対立の「出現」の背後にある音声産出機構を解明するために、音声コーパスの資料分析を予定している。また、特に、音韻対立の「転換」に関する研究を発展させるために、平成30年度後半より、オランダのアムステルダム大学において在外研究を実施する予定である。
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Remarks |
2017年9月より、トロント大学言語学科のAlexei Kochetov氏とともに、Ultrasound、Electroglottography (EGG)、Electropalatography (EPG) を組み合わせた調音音声学研究を進めている。
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Research Products
(12 results)