2018 Fiscal Year Annual Research Report
Interfaces between synchronically marginal sound patterns and diachrony
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17J08493
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Research Institution | National Institute for Japanese Language and Linguistics |
Principal Investigator |
松井 真雪 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 理論・対照研究領域, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | Phonological contrast / Neutralization / Contrast enhencement / Ultrasound / Electroglottography / Acoustics |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、音韻対立の消失・出現・転換の背後にある音声産出と知覚機構を解明することを目的とする。 年度前半は、調音音声学の研究手法であるElectroglottography (EGG) とUltrasoundの同時収録実験を実施した。EGGとは、声門の開閉の度合いに関する特徴を記録するための研究手法である。一方、Ultrasoundとは、口腔の調音器官の動きや形状を可視化するための研究手法である。資料収集は複数の子音対立を網羅しているが、平成30年度は特に、ロシア語における「音韻論的無声化」と、英語における「音声学的無声化」という2種類の現象が、調音結合 (coarticulation) の観点からどのように解釈されるかを検討した。研究成果は、来年度以降に発表される予定である。以上の取り組みによって、(3カ年計画の目的の一つである) 音韻の対立と中和の背後にある調音機序の解明を目指した。 年度後半は、post-nasal voicingによる対立弱化とそれと相反する対立強化という現象に注目し、言語普遍的な音声学的原理と、個別言語に固有の文法規則 (例えば、語末における無声化規則) とがどのように相互作用をなすのかという議題に取り組んだ。この議題は、音韻の中和と転換に関係する議題であると同時に、音韻理論と類型論の観点からも、主要な貢献が期待できる。音声資料として、2012年にロシアにおいて収録済の録音音声資料を分析した。上述の研究成果は、来年度以降に発表・刊行される予定である。 この他に、2018年10月に、日本語プロソディーに関する発表を1件行なった。この発表では、2歳から5歳の幼児の発話が収録されているコーパス (Paidologos corpus) を資料体として、ピッチアクセントによる音韻対立と中和パタンが、どの時期に発生し大人の言語体系へと進化していくのかという問題を考察した。以上の取り組みによって、音韻対立と中和の背後にある音調実現に関する理解を促進することができたと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は下記の理由により、当初の予定以上の進展があったと考える。 年度前半は、昨年度より引き続き、トロント大学音声学研究室において、ロシア語と英語の分節音パタンに関する対照音声学的研究を実施した。また、研究成果の一部を同大学のAlexei Kochetov博士と共著論文として出版した。 年度後半には、オランダのアムステルダム大学に拠点を移し、同大学のSilke Hamann博士と共に、子音連続 (特に、鼻音と閉鎖音の子音連続) の音声実現を支配する音声学的原理とその言語類型、音韻パタンとの相互作用に関する研究を進めた。オランダでの在外研究は、当初の研究計画には含まれていなかったが、北米とヨーロッパの研究者との相互作用によって、本研究は当初の予定以上に、広がりを持ちつつある。 さらに、10月には、東京方言プロソディーに関する成果を発表し、2編の論文が刊行された。 以上の取り組みの結果、今年度は、3編の論文を出版し、2件の研究発表を実施した。このことから、本研究は、当初の予定以上に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
3カ年計画の最終年度である今年度の計画は、これまでの研究成果を発表・刊行することに主軸をおく。現時点では、2019年6月と8月に、研究成果の一部を3件の国際学会 (Phonetics and Phonology in Europe, International Congress of Phonetic Sciences, International Cognitive Linguistics Conference) において発表し (全て採択済)、3編の論文原稿を学術誌に投稿する見通しである。現実問題として、国際誌において査読 (ピアレビュー) を経て刊行に到るまでに要する時間を考慮すると、研究成果のいくつかは、研究計画終了後に刊行される可能性が高い。しかしながら、できる限り来年度中に刊行されるよう、資料分析と論文執筆を引き続き進めていく。
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Research Products
(7 results)