2017 Fiscal Year Annual Research Report
筋細胞膜安定化因子ジストロフィンがもつ新規骨格筋幹細胞制御機構の発見とその解明
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17J08505
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
寺本 奈保美 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 筋ジストロフィー / 筋衛星細胞 / 骨格筋 / ジストロフィン |
Outline of Annual Research Achievements |
ベッカー型筋ジストロフィーはジストロフィン遺伝子のin-frame変異に起因する遺伝病であり、生涯に渡って持続的な筋損傷を示す。同疾病には現在までに有用なモデル動物が存在しなかったため、その詳しい病態進行は明らかではない。本研究は、我々がCRISPR/Cas法を用いて新たに作出した、ジストロフィン遺伝子にin-frame変異をもつラット(IF系統)を用いてベッカー型筋ジストロフィーの筋損傷および筋再生過程におけるジストロフィンが担う機能を明らかにしようとするものである。 本年度は骨格筋前駆細胞である筋衛星細胞の筋分化能の評価および骨格筋の病態解析を行った。まず、IF系統骨格筋由来の初代培養を行ったところ、IF系統の筋衛星細胞は野生型と同等に増殖・融合し多核の筋管細胞を形成したが、形成された筋管細胞においては筋再生初期に必要な複数の遺伝子の発現が有意に減少していた。また、IF系統骨格筋では遺伝子変異に基づいた短縮型ジストロフィンが検出され、そのタンパク量は野生型と比較して半減していた。さらにIF系統骨格筋では約75 kDaのジストロフィン新規アイソフォームが発現することが明らかになった。以上の結果より、ジストロフィン遺伝子のin-frame変異はジストロフィンタンパク質発現動態の異常を介して筋衛星細胞の筋分化過程に影響を与える可能性が示された。また、新規アイソフォームの発現はベッカー型筋ジストロフィーの新たな病態形成機構の発見につながることが期待される。今後は、新規アイソフォームの発現機構とその発現が筋衛星細胞の分化および骨格筋病態に与える影響を調べる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題では、ベッカー型筋ジストロフィーモデルラットにおいて筋衛星細胞の筋分化能に異常がみられること、および骨格筋において遺伝子変異に基づく短縮型ジストロフィンタンパク質に加えて新規ジストロフィンアイソフォームが発現することが明らかとなった。これらの結果はジストロフィンタンパク質の発現異常が筋衛星細胞の性質変化および骨格筋組織病態に寄与する可能性を示すものであり、当初の計画と同程度に進んでいると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題で発見された新規アイソフォームは正常なジストロフィンと共通のドメインを有しているため、筋衛星細胞および筋線維において正常ジストロフィンと同様もしくは類似した機能をもつことが予想される。今後このタンパク質の発現動態および生理的役割を明らかにすることにより、ヒトベッカー型筋ジストロフィー患者骨格筋におけるジストロフィンアイソフォームの役割に外挿することができると期待される。 まず、新規アイソフォームのmRNA配列をシークエンシングによって明らかにし、IF系統由来初代培養細胞およびin vivo骨格筋における遺伝子発現を解析する。その発現動態に基づき、初代培養細胞におけるsiRNAを用いた発現抑制およびプラスミド導入による過剰発現を行い、筋分化過程における機能を明らかにする。また、新規アイソフォーム特異的な抗体を作出し、骨格筋組織中の発現部位を明らかにする。
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Research Products
(1 results)