2017 Fiscal Year Annual Research Report
界面活性剤添加による乱流渦の改変を利用した熱物質輸送制御
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17J08520
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
原 峻平 東京理科大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 粘弾性流体 / 界面活性剤溶液 / 乱流渦 / 熱・物質輸送 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は,高効率の熱輸送システムへの指針を得るために,粘弾性流体に分類される界面活性剤溶液の平行平板間乱流における熱物質輸送機構を実験的に調査した. 最初に,二成分レーザードップラー流速計及び細線熱電対プローブによって速度・温度の時系列測定を行った.取得データをもとに解析を行うことで,界面活性剤溶液が高濃度かつ低レイノルズ数の条件では,壁近くに低周波数の粘弾性的振動(VEV)が出現していることがわかった.その輸送機構を調べたところ,VEVは通常の乱流拡散をもたらす振動とは異なり弾性的な振動であるため,壁から流体が離脱したとしてもまた壁に戻され結果としてレイノルズせん断応力は発生しないが,VEVによって運ばれる熱は,流体塊の移動ともに熱拡散するので熱流束を生じることが分かった. 次に,粒子画像流速計測法及び平面レーザー誘起蛍光法による同時測定を行うことで,同期させた瞬時速度場と瞬時濃度場を取得した.ここでは特に,変調を受けた乱流渦に着目して,パターン認識法等を用いた解析を行うことで,その運動量・物質輸送の空間的挙動を調査した.その結果,乱流渦による運動量と物質の輸送は空間的に狭い範囲で行われていることが明らかになった. 上述の研究内容は口頭発表の国内学会2件と査読付き国際学会1件として発表し,博士論文の一部としてまとめ上げた.それに加えて,実験中に界面活性剤溶液が乱流中でゲル化する現象を発見し,今後様々な分野に応用できる可能性を示した.この内容は来年度の査読付き国際学会で発表予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,二つの実験手法を用いて実験条件を変更しながら,界面活性剤溶液の平行平板間乱流を調査した.当初予定していた二成分レーザードップラー流速計(LDV)と細線熱電対プローブによる速度・温度の同時測定は,LDVが修繕不可の状態になってしまったために断念した.また,粒子画像流速計測法及び平面レーザー誘起蛍光法による実験では,特定の実験条件下において後述する新現象が出現したために,乱流渦に着目した調査が行えなかった.そこで限られた取得データをもとに,壁近くに現れる低周波数の粘弾性的振動の運動量・熱輸送と変調を受けた乱流渦の運動量・物質輸送を調べ上げたところ,幸いにも結論に至るまでの十分な確証が得られたため,博士論文としてまとめあげることができた. 界面活性剤溶液の平行平板間乱流の瞬時濃度場を作り出すために,平行平板の片側を多孔質壁にし,そこを通じて染料を混ぜた界面活性剤溶液を主流に浸み出させる必要があった.その際に,界面活性剤溶液の溶液濃度,主流速度,浸み出し速度の組み合わせによって多孔質壁からゲルが形成されることを世界で初めて発見した.このゲル形成は,多孔質壁から浸み出される際に界面活性剤溶液内の高分子にせん断が加わり,その結果できたものと推測される.条件に依っては平行平板の半幅以上までゲルの厚みは成長した.ゲル層内には流れがなく,固体として振る舞うために,流路内の圧損が著しく増加する結果も得られた.また,浸み出し先の溶液の種類に関係なく,かつ静止流体,層流,乱流であったとしてもゲルが形成され,今後様々な分野に応用できる可能性を示唆する現象であることがわかった.
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画していた研究については,博士論文という形でまとめ上げた.今後はそれらの研究内容を国際雑誌論文として仕上げ,順次投稿していく予定である. 液体の乱流への界面活性剤溶液浸出によるゲル形成については,乱流制御やソフトマテリアル生産の観点からも重要視されるため,今後とも研究を続ける予定である.ゲルの大きさが,界面活性剤溶液濃度,主流速度,浸み出し速度,浸出先の溶液の種類によって変わることは定性的に既に確かめたので,これを定量的に検証するための実験を行う予定である.また,ゲル形成には多孔質壁から浸出される際のせん断率も重要視されるが,既存の装置ではせん断率を広範囲で変更することができない.それに加えて,現在の実験では,平行平板間流れに対して垂直に界面活性剤溶液を浸出させているので,ゲルには横向きに力が加わっている状態であり,それとは異なる方向からゲルに力を加えた際にどのようにゲル形成が起こるか調べるのには不向きである.そのため,多孔質壁のメッシュが自由に変更でき,かつ界面活性剤溶液の浸出先の流れの向きが自由に変更できるものを新規の実験装置として作成する予定である. 来年度からスウェーデンに渡航し,スウェーデン王立工科大学と共同研究を行う.これまでに培った界面活性剤溶液の乱流で観測される抵抗低減現象の知見を活かし,航空力学の分野で重要視される基礎研究の一つである粗さ付き平板上での境界層遷移について実験的に調査を行う.
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