2018 Fiscal Year Annual Research Report
熟議民主主義理論におけるシステミック・アプローチの研究
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17J08907
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
福島 弦 早稲田大学, 早稲田大学大学院政治学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 政治的リベラリズム / 公共的理性リベラリズム / 正統性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、政治的正統性を政治制度の公共的正当化可能性──理にかなった市民に対する正当化可能性──に基礎付ける「公共的理性リベラリズム」 という立場の理論的整合性について、以下二つの側面から研究を行なった。 第一に、公共的理性リベラリズムに対する自己論駁批判を検討した。自己論駁批判とは、公共的理性リベラリズムは論争的な政治制度を回避することを目的とするにも関わらず、公共的理性リベラリズム自体の核心的原理である「公共的正当化原理」がそもそも論争的であるために、公共的理性リベラリズムは自己論駁的であるとの批判である。この批判に対しては、公共的理性リベラリズムの諸構想を分類し、自己論駁的であるとの批判は公共的理性リベラリズムの一部の構想に対してのみ妥当するのであって、公共的理性リベラリズム一般に対して妥当するものではないと応答した。 第二に、公共的理性リベラリズムと真理概念との関係について検討した。このテーマの背景には、公共的理性リベラリズムを最初に体系的に理論化したジョン・ロールズは、その理論の内部から真理概念を排除していた一方で、近年様々な論者が公共的理性リベラリズムは究極的には真理概念を回避することができないと論じている状況が存在する。このテーマについては、公共的理性リベラリズムは少なくともその公共的正当化原理の真理を認めなければならず、したがって適切な形で真理概念を組み込むことによってロールズの理論枠組みから脱却しなければならないと論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の進捗状況については、以下の二つの理由で「おおむね順調に進展している」と評価することができる。 第一に、本研究の中心を占める議論の大部分がすでに完成している。本研究では、政治的正統性を政治制度の公共的正当化可能性に基礎付ける「公共的理性リベラリズム」 の擁護がその中心部分を占める。この点については、現在までに公共的理性リベラリズムの主要な研究のレビューが済んでおり、その理論枠組みの定式化およびそれに対する諸種の内在的批判──真理概念の回避戦略についての批判および自己論駁批判──に対する応答の部分が完成している。したがって、現時点で研究の核となる議論の大部分が完成していると評価できる。 第二に、研究完成までに必要とされる残りの研究の目処が立っている。本研究では、公共的理性リベラリズムの定式化およびその理論的整合性の説明に加えて、それがオルタナティブの理論と比べてどの点で優れているかについて、別の理論との比較検討を通じて示す。この点についての研究は未だ完成してはいないものの、どのオルタナティブの構想について論ずるか、またそれらのオルタナティブの構想のどの点に弱点を抱えているのかについては既に議論の目処が立っているために、これから大きな困難なしにこの研究を完成させることができると考えられる。 以上より、研究の中心となる議論の大部分が完成しており、また残る部分についても議論の目処が立っているために、本研究の進捗状況については「おおむね順調に進展している」と評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、大まかに言って次のような二つのステップを踏む形で本研究を推進していく予定である。 第一に、本研究の未完成の部分である、公共的理性リベラリズムとオルタナティブの理論との比較検討についての議論を完成させる。ここではまず、そもそも正統性を規範的な概念として捉えることに対して批判的である「政治的リアリズム」の立場を退ける。次に、規範的な概念として正統性を捉えている点では公共的理性リベラリズムと共通しているものの、それとは異なる形で正統性が成立する条件を理解している二つの構想──実際の受容構想および正しさ基底的正当化構想──と公共的理性リベラリズムを比較検討し、それらのオルタナティブの構想に対する公共的理性リベラリズムの優位性を示す。これによって本研究の議論が完成する。この研究成果は学会報告や学術雑誌への投稿を通じて得られたコメントを参考にしてさらに洗練させていく。 第二に、このオルタナティブの理論との比較検討を行う部分と、既に完成している公共的理性リベラリズムの定式化および内在的批判に対する応答を行なっている部分とを統合し、必要な修正を双方に加えたのちに、博士論文を完成させる。ここでは、博士論文を通して概念が一貫して用いられているか、また本研究を構成する二つの部分の間に緊張関係や矛盾が存在しないかについて詳細に検討する。
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Research Products
(3 results)