2017 Fiscal Year Annual Research Report
新感覚派文学における物理科学の受容と展開に関する総合的研究
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17J09096
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
加藤 夢三 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 新感覚派 / 理論物理学 / 昭和初期文壇 / 科学思想 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、1930年代における文学者たちの自然科学受容のあり方について、共時的な言論環境や多分野の学術動向を視野に入れながら考察を積み重ねてきた。その結果、一口に自然科学受容といっても、そこには多方向的な興味・関心が伏在しており、この時期の文壇に輸入された自然科学の知見は一律に均質化できるものではないことが明らかとなった。 具体的には、同時代における文学者たちの多くが、自然科学を主として精神生理学や神経病理学の観点から享受する傾向が強かったのに対して、横光利一や中河與一といった新感覚派作家たちの自然科学に対する興味・関心は、むしろ人間のスケールではとらえきれない理論物理学の領域に向けられていたことを背景として、横光が戦時下において国粋主義イデオロギーに接近していったのは、単に時局に由来するものばかりでなく、現象世界と「物自体」を厳格に峻別する二元論的発想を極限まで敷衍させていった結果であったことを明らかにした。 また、中河は理論物理学のなかでも量子力学に傾倒していくことになるが、その知見をもとに練り上げられた「偶然文学論」を検討してみると、合理的な秩序体系を内破するような量子力学の問題構制が、同時代の非合理性を称揚する言説空間において、確かなアクチュアリティをはらんでいたことが読み取られることを明らかにした。ほかにも、そのような合理と非合理を反転させるような理論物理学の動向に影響を受けた作家として、夢野久作の「怪奇小説」論について学会発表を行なった。総じて、理論物理学の受容と展開という視座から文学者たちの方法意識を再定位してみたとき、そこには従来の文学史的な図式とは全く異なる影響関係が見いだされることを浮かび上がらせた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
査読誌に5本の論文を載せることができ、自身の研究成果をしっかりと残すことができたと自負している。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り、2年目は前年度の基礎研究に基づいて、昭和初期文壇の理論物理学受容を支えた社会的・政治的背景について考証し、同時代の自然科学が担った「近代」への批評性を提示したうえで本研究を構築・完成していく。 (1)これまでの研究で得られた成果を引き継ぎ、必要な資料について調査・収集を進める。 (2)前年度にまとめた研究成果をもとに、「近代」という時代精神を基礎づける思考の原理について、同時代の自然科学のパラダイム・チェンジの波が担った批評性を浮かび上がらせ、新感覚派作家の想像力の源泉を既存の文学史の中に明確に位置づける。 (3)新感覚派作家たちの科学に対する探究心が、かたちを変えながらその後の純文学領域においても継承されていることを明らかにするため、影響関係のある後続の作品についても適宜検討を加える。 以上を博士論文にまとめ、本研究における課題を達成・完了する。
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Research Products
(6 results)