2017 Fiscal Year Annual Research Report
アメリカ南部文学におけるミステリー的意匠―ウィリアム・フォークナーを中心に
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17J09102
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉岡 求 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | アメリカ文学 / フォークナー / 探偵小説 / ジェンダー・セクシュアリティ / 南部文学 / クィア理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、アメリカ文学(とりわけ南部文学)において所謂「純文学」と「大衆小説」のジャンル的差異を問い直すものであり、その具体的な事例としてウィリアム・フォークナーを中心とした南部作家の小説作品における探偵小説的意匠の分析を行うものである。この成果として、フォークナーの代表作『アブサロム・アブサロム!』の探偵小説的構造を分析した修士論文での議論を発展させたものを、東京大学英語英米文学研究室発行の紀要『ストラータ』に投稿した。ここでは『アブサロム』における探偵小説構造が、登場人物たちの人種的なアイデンティティの問題、さらに各々のセクシュアリティと密接に結びついていることを指摘した。これにより、フォークナーの他作品はもちろんのこと、南部文学総体における探偵小説性を、人種とセクシュアリティの結びつきから具体的に理論化する端緒が得られたと考える。 また、純文学性と大衆性のジャンル的な差異への興味を発展させた結果として、文学テクストとそれ以外の大衆的な物語媒体、具体的には映画や漫画との比較研究に発展の可能性を見出し、少年漫画に文学研究の手法を応用した論文を同人誌の形で発表した。本研究の中心的な研究対象である大衆小説における物語形式は、とりわけ20世紀以降、映画や漫画という他の表現媒体へと吸収されているため、こうした比較研究の試みは、研究対象の射程をジャンル的、時代的に押し広げ、よりスケールの大きな研究につなげることを可能にすると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
探偵小説におけるアイデンティティの問題に取り組むにあたり、人種とセクシュアリティの結びつきを分析する必要が生じたため、本研究はジェンダー・セクシュアリティ研究の領域へと射程を伸ばしている。とりわけ、小説中の「謎」として扱われることが多い登場人物の同性愛的な欲望の問題を分析するため、クィア理論からのアプローチが不可欠となり、バトラー、セジウィック、ベルサーニなどの代表的な理論家の思想を研究に取り込むこととなった。結果、本研究は探偵小説性へのアプローチの多様性を広げると同時に、研究対象領域を人種の問題が中心的な南部文学からアメリカ文学一般へと広げることが可能となった。今後、本研究は、人種とセクシュアリティを二本柱としながら、アメリカ文学史全般を通じた探偵小説的な構造の系譜を追う、より大きなトピックへと発展していくだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針としては、ジェンダー・セクシュアリティの理論的な基礎研究を進めつつ、実際の小説テクストにおける人種・セクシュアリティの問題を、探偵小説的構造の面から分析していくことになる。対象のテクストは、さしあたりこれまでの研究を引き続かたちでウィリアム・フォークナーを中心とする南部作家になるが、とりわけセクシュアリティの問題が小説のテーマとなるトルーマン・カポーティやカーソン・マッカラーズのテクストが重要な分析対象となっていくように思われる。また、「謎」を中心とする作品構造と、人種あるいはセクシュアリティの関係という点から、南部作家という領域を逸脱するもののヘンリー・ジェイムズやジェイムズ・ボールドウィンなどの作家に注目することで、広くアメリカ文学史全体を視野に入れた研究ができる可能性があるように思われる。
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Research Products
(2 results)