2017 Fiscal Year Annual Research Report
An empirical analysis on factors of evaluating performing arts
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17J09142
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
鈴木 星良 大阪大学, 国際公共政策研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 学校外教育 / 所得 / 幸福度 / 舞台芸術 / 効果分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は実証分析に基づく舞台芸術の価値評価指標の構築である。これまで、芸術は長期的でかつ属人的な効果をもつというその特異性から影響を及ぼす観点や効果に対する実証的な検証はなされてこなかった。そうした状況を踏まえて本年度はまず、芸術の経済状況および幸福度に与える影響を仮定してそれぞれ分析を行い、仮説を検証した。それにより、今まで定性的に指摘されてきた観点を汎用化することができる。さらに、評価の指標として加えることが適当な芸術が影響を及ぼす他の観点の模索に努めた。 まず芸術の経済状況に与えるインプットに関しては本年度中に教育社会学会での掲載を目指し査読審査に投稿した。分析の結果としては、特に女性の場合小学生時の文化的な活動の経験は学歴の上昇を通じて将来所得に正の影響をもたらしていることが明らかにされ、男性の場合、文化的な経験がスポーツ活動や塾通いなど他の種類の活動経験と一緒になり、学歴や所得に影響をもたらすことが明らかにされた。一方で、芸術の幸福度に与える影響に関しては、分析のためのインプットを増やしつつ、先行研究で使われた分位点回帰分析を日本のデータに適用した。結果として、幼少期から現在までの芸術の鑑賞や体験頻度によって、現在の生活一般の幸福度に影響を及ぼすことが明らかになっている。具体的には、芸術を享受する頻度が高いほど、幸福度の低い層はより低く、高い層はより高くなるという影響を捉えた。結果は、2017年12月にウィーン(オーストリア)で開催された国際学会にて、芸術が幸福度に与える影響の分析結果を報告した。 最後に、芸術が影響を及ぼす他の観点の模索のために、パリ(フランス)にあるUNESCOを拠点に文化を取り扱う国際機関が重要視しその振興のために用いる評価指標およびその評価方法についての調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに、計画通り芸術が個人の将来所得および幸福度にもたらす影響の実証分析を行うことができた。また、その結果双方の仮説において海外の先行研究には見られない日本に特徴的な傾向を捉えることができ、国際学会での報告も叶った。その点で、研究の進捗状況はおおむね順調であるといえる。 1点当初の計画と大幅に変わった点もある。29年度当初は、研究目的のためにウェブ上でのアンケート調査を実施する予定をしていたものの、今年度中に国際機関(UNESCO)での現地調査を実施することができ、文化芸術分野に対する国際的視点から対策と支援の在り方についてこれまで得ることができなかった資料を確保することができた。さらに、UNESCO文化局の中でも「文化的表現の多様性の保護及び促進に関する条約」に関わる部署では、2年に一度批准国に対して文化芸術分野の状況についての報告書を提出することを求めており、その報告書をまとめたデータをウェブサイト上で公開する潮流にあることも明らかとなった。そうしたデータを用いることで、今後の調査では国レベルのより政策要素の高い議論を展開できることが期待される。さらに、今年度実施できなかったアンケート調査は、全体のスケジュールを来年度中に実施することも可能である。そのため、当初計画していたデータの獲得には繋がらなかったものの、より信頼性の高いデータの獲得できることを鑑みると、研究は順調に進展しているものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、芸術が影響を及ぼす他の観点を模索する中で得られた知見を活かし、効果の検証対象となる要素を抽出した上で、可能であれば実証的に分析を行いその汎用性をアウトプットしたい。有用な資料としては、UNESCOでの調査のほかに、昨年度モスクワで調査した芸術施設の地域への貢献を多分野の人々と議論し学術的な知見を加味して提示する作業を通じて、他研究科の研究者が見出す芸術の意味を探ったこと、ある総合研究所が開催するイノベーションプログラムに参加し、様々な分野で活躍する企業の代表者およびクリエイティブ産業に携わる人々との意見交換を通じて、それぞれが見出す芸術の価値を捉えたこと、さらに、東京大学政策ビジョン研究センター・文化を基軸とした融合型新産業創出研究ユニットが主催し東京で行われた日本の文化政策の新たな姿を探るシンポジウムに参加したことが挙げられる。 これらの知見から、芸術が影響を及ぼす観点を仮説として抽出し、可能であればその仮説の検証のために昨年度実施を見送ったアンケート調査を幅広い人々にむけて行いたい。さらに、これらの指標が日本の文化芸術政策、率いては経済政策につなげていくことができるようなより実践的な政策指標も検討していくことを目標とする。 文化政策の事情は現在進行形で推進過程にあり、各地で様々な議論が展開している。そのため、検討したい要素が発散する傾向にあり、今後の日本の文化政策の根幹となり得るようなインパクトの強い観点をどのように選択していけるかが要となる。
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