2017 Fiscal Year Annual Research Report
金融市場における多様性の研究:新型市場トイモデルの構築と応用
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17J09156
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
片平 啓 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 市場ダイナミクス / 定型化された事実 / マルチエージェントシミュレーション / 複雑適応系 / 経済物理 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、金融市場における価格の時系列データが有する様々な定性的性質「定型化された事実」の詳細について調査し、それらの多くの性質が再現可能な新型トイモデル「投機ゲーム(speculation game)」の構築に努めた。複数の定型化された事実を同時に再現することは存外に難しく、既存の確率過程モデルやエージェント・ベース・モデルを用いたとしても、再現できる性質は高々3~4個程度である。しかし、新型モデルでは、記憶長や戦略といった少数派ゲームの仕組みをプレーヤーの意思決定部分に利用し、エージェントの行動モデルとしてMarket WorldとCognitive Worldという新たな枠組みを導入することで、10個もの定型化された事実を同一のパラメータ設定下で再現することに成功した。 投機ゲームを用いた分析により、プレーヤー間の富の分布状況や取引期間の分布状況が、ボラティリティ・クラスタリング(代表的な定型化された事実の一つで、ボラティリティの大きい箇所がまとまって現れる性質を呼ぶ)の創発に寄与することが明らかになった。この結果は、先行研究によって解明された「他人の行動に追従・同調する」という群集行動以外の創発メカニズムの存在を提示するものである。また、市場の流動性を高めることは、突発的なボラティリティの増大を減じる効果がある一方、プレーヤー間の富の格差を拡大させてしまうことも分かった。なお、過度に流動性を高めると、システムが極限状態(extreme state)に相転移を起こし、市場が非常に不安定になる。さらに、参加プレーヤーの記憶長や戦略数を多様化すると、記憶長が短く、保有戦略数が少ないプレーヤーであるほど優位に取引を進めることも明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
構築した投機ゲームは、比較的シンプルな構造でありながら、想定していた以上に市場としての再現能力が高く、当該分野に対し、ボトムアップ型の金融市場の分析ツールとして有用なモデルを提案することができた(経済物理学分野で著名なPhysica A誌に投稿中)と考えている。加えて、従来の考え方とは異なるボラティリティ・クラスタリングの創発メカニズムについても、新たに発見することができた。また、各パラメータの効果を検証する過程において、市場の流動性に関する予想外の相転移現象が確認され、過度な流動性による危険性についても知見が得られた。このように、研究実施計画に記載した内容については、予期した以上の成果とともに完遂することができた。 さらに、以上の結果に留まらず、次年度の研究テーマである「進化」について考え始めたところ、モデルへの自己組織化メカニズムの導入を思いつき、初歩的段階ではあるが、幾つかの興味深い結果も得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究により、数多くの興味深いシミュレーション結果や市場メカニズムの解析結果が得られているので、まず、それらを論文にまとめ、投稿する予定である。また、当初の研究実施計画では、プレーヤーレベルの進化・多様化による市場への影響に焦点を当てた研究内容だったが、システム全体としての進化に関して一定の成果が既に得られているため、今後は、金融市場における「自己組織化現象」を中心に研究していきたいと考えている。さらに、投機ゲームを論文として投稿した際、査読者から生成した時系列データにおけるフラクタル性について指摘されたため、投機ゲームに対するフラクタル解析などの実施も検討している。
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Research Products
(3 results)