2017 Fiscal Year Annual Research Report
Visual elements in Donald Barthelme's works
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17J09204
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
足立 伊織 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 20世紀美術と文学 / メディア論と文学研究 / 視覚論と文学研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は主に資料の収集、購読など、準備段階的な作業を進めた。研究の中心的な対象であるドナルド・バーセルミが関わり、また影響を受けたとりわけ同時代の北米美術に関する論考、また激しい変化の渦中にあった当時のメディア環境に関する理論を中心に調査し、並行して文学作品や文学理論を読んでゆくことで、視覚芸術を中心とした文学以外のメディアと文学研究との接合を探った。 以上のような理論的な調査とは別に、平成30年3月には北米に一週間ほど調査へ赴いた。ドナルド・バーセルミが作家としてのキャリアを送っている時期に住んでいたニューヨーク、マンハッタンのグリニッチ・ヴィレッジや、また彼がしばしば作品の背景に書き込むロケーションにも訪れた。また、マンハッタンのいくつかの美術館において、とりわけ20世紀前半の西洋視覚芸術(シュールレアリスムやキュビズムなど)、20世紀後半の北米視覚美術を中心として調査を行った。これらは、視覚芸術の中でもとりわけドナルド・バーセルミが直接的・間接的な影響を受け、また深い関係を持っていたと考えられるものである。バーセルミは美術批評を自ら行いもし、また同時代の美術批評家やメディア研究者の著作からも深く影響を受け、自らの作品にも様々な形でその影響を組み込んでいたことが確認された。 また中心的な研究対象からやや離れたものとしては、現代の詩人であり、バーセルミと同様にしばしば図像を作品に組み込み、タイポグラフィカルな特徴を持つ詩を書く最果タヒの小説作品への論考を行った。その他、書評の翻訳を2点行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していたとおりに、29年度は視覚造形美術や視覚そのもの、メディアに関する論考や理論理論を中心的に扱い、また直接20世紀の欧米視覚芸術作品を実地で調査することができた。 とりわけ発見であったのは、美術批評家のハロルド・ローゼンバーグの著作がバーセルミの作品に影響を与えていたのと同様に、例えばマーシャル・マクルーハンの著作といったメディア論の書物が、単に同時代的な現象に共に反応していたというだけでなく、当時の芸術家たちの作品制作や、バーセルミの作品にも、かなり直接的な影響を与えたのではないかと思われる点を見つけたことであった。未だ仮説に留まる部分が大きいが、精査することでバーセルミ作品の理解、研究が大きく進む可能性があるように思われる。 今年度に執筆・発表する予定であった論文は、掲載先の論集発行の遅れによって未発表のままであるが、平成30年度の前半には発表となる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に執筆・発表する予定であった論文を終え、次の論文の執筆へと取り掛かる。 夏にはハーヴァード大学が主催するプログラム、The Institute for Wold Literatureに参加し、研究の中心的な手法の一つであるグローバリズムの環境の中で作品を捉える方策への理解を深める。 また、平成31年1月に行われるアメリカ文学会支部会において、中心的な関心であるドナルド・バーセルミの作品を対象として発表を行う予定である。 論文、発表において、具体的に何を対象にするかは両者の兼ね合いではありまだ明確ではないが、バーセルミの長編『死父(The Dead Father)』の一部を成す "manual for sons" の部分と、コメニウスの『世界図絵』の比較を、とりわけ両者における図像と文章、そしてそれらが提出する世界像に関して行う予定である。『世界図絵』は、文学研究やメディア研究よりも、教育学においてしばしば取り上げられる書物であるため、中心的な研究対象を離れ、教育学と関わる資料を読む必要があると考えられる。
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Remarks |
(1)(2)共にレアード・ハント『英文創作教室』の書評であり、それぞれ(1)David Peace, (2)Roland Keltsが書いたものを、(1)週刊読書人、(2)図書新聞からの依頼により翻訳した。URLはそれぞれのweb版であるが、図書新聞のWEB版は会員のみアクセス可能。
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