2018 Fiscal Year Annual Research Report
メルロ=ポンティにおける存在論の再構築とその現代的な位置付けの検討
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17J09278
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田村 正資 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | メルロ=ポンティ / 未規定性 / 動機付け / 現象学 / グールヴィッチ |
Outline of Annual Research Achievements |
一昨年度は、メルロ=ポンティの現象学における「未規定性」という主題について集中的に論じた。そしてそれらの成果は、昨年度に執筆・出版した二本の論文に結実している(① 「メルロ=ポンティにおける知覚経験の未規定性」、『フランス哲学・思想研究』23号および、② 「メルロ=ポンティにおける「動機付け」と「自由」:『知覚の現象学』から『意味と無意味』へ」)。一方の論文では、英語圏での未規定性の議論が、メルロ=ポンティのテクストに即して不十分であることを指摘したうえで、さらに整合的かつ私たちの知覚経験の理解に即したものとして「未規定性」を論じ直している。もう一方の論文では、メルロ=ポンティの「動機付け」という概念に焦点を当てている。この概念は従来『知覚の現象学』に特有のものとして論じられていたが、拙論では『意味と無意味』の読解によって「動機付け」概念のより緻密な議論が可能になることを示した。 また、メルロ=ポンティ研究の拡がりのなかで、「人種差別」について現象学的な観点から論じた英語文献の書評会において英語による口頭発表を担当した。 以上が、前半期の成果である。後半期には、かねてより準備を進めていたボストン大学での研究滞在を半年間行った。Walter Hopp氏を受け容れ教員として、現象学的な各主題について、メルロ=ポンティが他の現象学者たちの議論をどのように踏まえ、批判し、そして改善していったのか、という視点から、とりわけ、アロン・グールヴィッチという現象学者に着目して研究を進めた。彼はフッサールと同時期の現象学者であり、メルロ=ポンティ哲学の形成に大きな役割を果たしている。しかしながら、メルロ=ポンティに大きな影響を与えたグールヴィッチの「知覚の領野」についての議論の重要性と比べたとき、このグールヴィッチに対して研究者たちが払ってきた注意は過小なものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者は、昨年度の研究の取り組みにおいて期待通りの進捗を示していると考えている。まず大きかったのは、申請者の研究計画のなかで重要な概念であるメルロ=ポンティの「未規定性」および「動機付け」についての論文を執筆し、これが査読付き学術誌において出版されたことである。これは、申請者の議論が学界に一定の貢献を示しうることの保証であると考えられ、今後の研究の展開に向けて自信を持って取り組んでいく礎となる。 また、申請者はボストン大学における在外研究のなかで、メルロ=ポンティの現象学的な議論をより広範な視点から理解するための視座を獲得することができた。グールヴィッチ研究は現在のところ、どこの国においても十分な蓄積がなされているとは言えないため、グールヴィッチについて論じること自体について学界への貢献が認められると考えられるし、それを踏まえたうえで、彼が重要な影響を及ぼしたメルロ=ポンティについて論じることで、これまでのメルロ=ポンティ研究にはなかった貢献を示すことができると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、昨年度の成果をアウトプットしながら博士論文の構想を固めることが主な課題となる。グールヴィッチの現象学についての研究、そしてそれが影響を与えたメルロ=ポンティ現象学との関係性についての比較研究を、日本メルロ=ポンティ・サークルや日本現象学会をはじめとした国内学会に発表・投稿するほか、国際メルロ=ポンティ・サークルのような海外の学会での発表を経て、Phenomenology and the Cognitive Sciencesのような英語圏の学術誌に投稿する予定である。 このような諸学会でのコミュニケーションを通して、自らの研究の強みと課題を再確認したうえで、昨年度に出版した二本の論文に発表した研究成果と併せて、博士論文にまとめあげる構想を具体的に組み上げる予定である。
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Research Products
(3 results)