2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J09309
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
須田 珠生 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
|
Keywords | 校歌 / 東京女子師範学校 / 『尋常小学唱歌』 / 音楽教育実践 / 儀式唱歌 / 『保育並ニ遊戯唱歌』 / 北原白秋 / 校歌の作成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、明治期から昭和戦前期までの期間を対象に、学校が校歌を制定し、それを児童や生徒が歌うことがいかなる意味を持ったのかを明らかにすることを目的としている。本年度は各学校における校歌制定の背景に着目し、次の2点について研究を進めた。 第一に、東京女子師範学校の校歌に着目し、どのような経緯を経て、東京女子師範学校の校歌がつくられたのか、そして同校の校歌が、唱歌教育のなかでいかなる位置づけにあったのかを明らかにした。これまでの校歌に関する先行研究では、日本で最初の校歌は、1878(明治11)年に作成された東京女子師範学校の校歌であるとされていた。しかし、同校の『学校一覧』等から、1878(明治11)年の時点では、「校歌」として作られたわけではなかったことを明らかにした。(第69回中国四国教育学会にて報告。『教育学研究紀要』第63巻に掲載。) 第二に、相馬御風、北原白秋、中山晋平の三者に焦点を当て、作詞家/作曲家である彼らが校歌の作成を自身の活動の中にどう位置づけていたのか、さらに、校歌に対していかなる考えや思いを抱いていたのかを雑誌や手記から考察した。校歌の価値や効果は、その作品自体の出来栄えにあるのではなく、それが歌われることによってこそ見出されるというのが三者に共通する考えであった。すなわち、作詞家/作曲家である彼らは、児童、生徒が学校の一員として校歌を歌うことで、連帯意識や愛校心、郷土愛といった感情を抱くことを期待していたのだということ示した。(『年報 教育の境界』第14号に掲載。) 加えて、全国的な校歌の普及の動きを捉えるため、1930年代に各地で展開された郷土教育に焦点を当て、該当史料の調査、収集を国会図書館、各地の公立図書館等にて行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画以上に進展している理由は次の2点である。 第一に、東京女子師範学校の校歌に着目し、その制定過程を明らかにすることを通して、同校の校歌が、大正期から昭和期にかけての小学校における唱歌教育実践にどのように関わっていたのかも検討することができた点である。東京女子師範学校の校歌は、当初は校歌として作成されたのではなく、東京女子師範学校附属幼稚園の園児、及び東京女子師範学校の生徒らの唱歌教育に用いることを目的に1878(明治11)年に作成された唱歌「学道」が、同校での式典・儀式の際に歌う唱歌としての役割を経て、1900(明治33)年に同校の「校歌」というかたちをとるようになった。さらに、東京女子師範学校校歌は、唱歌「みがかずば」の曲名で、『尋常小学唱歌第五学年用』、及び『新訂 尋常小学唱歌第五学年用』に収録され、本来、ひとつのコミュニティのなかでのみ歌われる校歌が、大正期から昭和期にかけて小学校の唱歌教材としての役割を果していた。本来、唱歌教材であった「学道」が、儀式唱歌としての役割を経て、東京女子師範学校校歌となった過程は、儀式唱歌と校歌の関係性を探るうえで有益な示唆を与えるものとなる。 第二に、当初予定していた校歌の作詞、作曲に携わった人物の記念館、資料館に保存されている校歌関連の史料調査、史料収集に加え、1930年代に各学校が出版した郷土教育の実践報告書等の史料を収集できた点である。郷土教育の展開に伴い、校歌の位置づけに変化がみられるようになる。校歌は、「郷土の歌」として位置づけられるようになり、単に、学校に在学している児童や生徒に歌われるだけでなく、地域の人々によって歌われる歌としての役割も果たすようになることが確認できた。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として次の2点を挙げる。 第一に、今年度、収集した郷土教育関連の史料の調査、収集を継続して行う。郷土教育の展開に伴い、現場の教員が校歌をいかなるものとして捉えるようになったのかを検討し、それ以前の校歌のありかたと比較することで、校歌の位置づけの変容を明らかにする。 第二に、各地の公文書館に保存された校歌関連の史料を収集し、整理、分析を行う。その作業を通して、文部省が個々の学校の校歌に対していかなる対応をしたのかを明らかにしていく。
|
Research Products
(3 results)