2017 Fiscal Year Annual Research Report
The absence of the theory of the state in the constitutional law in Postwar Japan
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17J09330
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
齋藤 暁 京都大学, 法学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 戦後憲法学 / 日本憲法学史 / 社会科学としての憲法学 / 立憲主義 / 比較経済史学 / 憲法制定権力論 / 宮沢俊義 / 樋口陽一 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、比較憲法研究の伝統が根強い日本では殆ど取り組まれてこなかった憲法学史研究を通じて、日本憲法学における共通の認識基盤を獲得することを目的とするものである。 平成29年度は、1960年代から70年代の日本憲法学を席巻した「社会科学としての憲法学」と、今日人口に膾炙する「立憲主義」を鍵概念として設定し、一方では両概念の理論構成に強い影響を与えた樋口陽一の学説を、他方で樋口が置かれた日本憲法学の知的状況を叙述することを通じて、戦後の日本憲法学が辿った足跡についてのスケッチを試みた。 具体的には、第1に、最初期の樋口における両概念の形成過程とその背景にある日本憲法学の知的状況についての考察を試みた。その際には、「社会科学としての憲法学」を志向した1950年代から70年代の日本憲法学の知的状況を概観した上で、一方で、ハンス・ケルゼン(Hans Kelsen)の法理論や世良晃志郎を中心とする仙台学派との関係を通じて、樋口が宮沢俊義の憲法科学の方法を如何に理解したのかを検討し、他方で、高橋幸八郎の比較経済史学の方法を通じて、樋口が「近代立憲主義」の視座を如何に獲得したのかを検討した。 第2に、以上の理解をふまえ、最初期の樋口の憲法学説が両概念および日本憲法学の知的状況に如何に規定されていたかの考察を試みた。その際には、主権論(憲法制定権力論)と憲法慣習論を主たる論点として設定し、宮沢俊義、杉原泰雄、そしてカール・シュミット(Carl Schmitt)との比較を通じて、樋口の憲法学説を詳細に検討した。 なお、以上の研究については、拙稿「初期樋口陽一の憲法学と〈戦後憲法学〉の知的状況―日本戦後憲法学史研究・序説」の形で、平成30年夏以降に順次公表が予定されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、戦後憲法学を「国家論の衰退傾向」を補助線として剔抉することを目的とする、日独の憲法学史研究である。かかる目的を達成するために、本研究は、第1に戦後憲法学の「戦後性」を、第2に戦前から戦後の国家論の変遷を、憲法学者が置かれた学問的・社会的文脈を踏まえ明らかにし、また第3に、日本憲法学の特殊性を析出するために、ドイツ憲法学を比較史的に考察することを当初計画していた。 もっとも、「国家論の衰退傾向」という仮説から戦後憲法学を明らかにするには、その背景となる日本憲法学の学問史的理解が決定的に不足していたことから、平成29年度は1点目に焦点を当て、学問としての日本憲法学を叙述することを通じて、その中から析出される自国の学問傾向を明らかにすることを主たる課題とした。 以上の方針に則り、平成29年度は、1960年代から70年代の日本憲法学を席巻した「社会科学としての憲法学」と、今日人口に膾炙する「立憲主義」の2つを鍵概念として、一方では両概念の理論構成に強い影響を与えた憲法学者・樋口陽一の学説を、他方で樋口が置かれた日本憲法学の知的状況を叙述することを通じて、戦後の日本憲法学が辿った足跡についてのスケッチを試みた。以上の研究については、拙稿「初期樋口陽一の憲法学と〈戦後憲法学〉の知的状況―日本戦後憲法学史研究・序説」の形で、平成30年夏以降に順次公表が予定されており、またその内容については、既に研究会での報告をもって批判を仰ぐことに成功している。 以上のことから、当初1年目に計画していた研究は概ね実施されており、また研究会での報告ならびに国内外での資料収集を通じて本研究の発展に努めることができた。したがって、本研究は概ね順調に進展していると評価されよう。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、戦後日本憲法学史研究に主に取り組んできた反面、戦後ドイツ憲法学史の研究は、憲法学史の方法論的研究の考察を進めるに留まった(例えばMichael StolleisやChristoph Gusy)。したがって、平成30年度は、主に戦後ドイツ憲法学史研究に従事したい。その際には、第1に、ワイマール期の知的伝統を汲む「国家からの思考」(シュミット学派)と、戦後の基本法に基づく「憲法からの思考」(スメント学派)とが対立した1970年代までの学派対立を、第2に、敗戦によるドイツ政治社会の西欧化を背景として、亡命や留学を経てアメリカ政治学の知見を摂取した公法学者の学説を中心に考察を進めたい。最終的には、以上の検討の成果を、戦後日独の比較憲法学史として纏め上げたいと考えている。
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