2017 Fiscal Year Annual Research Report
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17J09454
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中野 顕正 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 能楽 / 謡曲 / 世阿弥 / 金春禅竹 / 宗教的背景 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、中世の戯曲文芸である能(謡曲)の作品が、同時代の文芸世界あるいは文化史的背景の中からいかにして生まれ、そうした同時代の言語・文化的世界が個々の作品の中でいかに受け止められ、統合されているかについて、文献学的見地から解明することにある。 採用一年目にあたる本年度は、そうした研究を行う上での前提として、能作品の基盤となる中世の文芸・文化史的背景に関わる文献資料の蒐集につとめ、作品を解釈する上での前提となる諸知識の整理・考察をおこなった。特に、能楽の発生基盤を考える上で最も重要でありながら従来研究の遅れていた宗教文芸・宗教空間の問題(軍記や仏教説話などを含む)についての検討を重点的におこなった。 またそれと並行して、そうして得られた知見をもとに、個々の能作品について注釈的に精読をおこない、一部の作品に対して従来の作品理解を更新する解釈を提示した。その第一は、中世の宗教文芸・儀礼をめぐる知見に基づいて世阿弥作の能《当麻》を精読したもので、その成果は査読付論文「能《当麻》の主題と構想」(『能と狂言』15号、2017年7月)および「能《当麻》における宗教的奇蹟の空間造形」(『国語国文』86巻8号、2017年8月)として公表した。その第二は、同じく中世の宗教理解等に基づいて金春禅竹作の能《野宮》を精読したもので、その成果は次年度に口頭発表「能《野宮》における聖俗の転換」(中世文学会、2018年6月3日)として公表予定である。 次年度は本年度に引き続き、中世の言語・文化世界にまつわる諸知識の整理、およびそうした知見に基づく作品の精読をさらに進め、能の基盤と作品について個々の事例の分析を積み上げつつ体系的観点から考察することを目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
能作品の基盤を考察する前提としての文献資料の蒐集が進んだことで、多種多様な中世の言語・文化世界と能作品との関わりについての理解が深まり、個々の作品を分析・解釈するための基礎を固めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる次年度は、本年度にひきつづき中世の言語・文化世界にまつわる諸知識の蒐集につとめるとともに、その中で得られた、多種多様なひろがりを見せる中世文化の諸相にまつわる知見を受け止めた上で、それが個々の能作品の次元でいかに統合されているかにつき、そうした文化的な広がりを統合する能の側の論理という観点から考察を行うこととする。それにより、個々の能作品に即した精密な解釈を深めるとともに、そうした個々の事例に共通する〈能の基盤と作品とをつなぐ構想のあり方〉の一端を解明することを目指す。
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