2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J09542
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
大庭 大 早稲田大学, 政治経済学術院, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
Keywords | 事前分配 / 当初分配 / 公共政策 / 規範的政治理論 / 財産所有のデモクラシー / 関係論的平等 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.実践的な政策の評価・提案における価値(規範)に関する問いの扱い方 公共政策学と政治哲学の二つの領域において、価値に関する規範的考察と実践的政策判断を結びつけて論じている既存の研究を検討した。第一に、公共政策学において未だに影響力のある古典的見解として漸進主義の立場を検討した。漸進主義は、政策効果の予測と把握がしばしば極めて困難であるという認識から出発し、ある方向への極小の変化を導入し、その変化が望ましければ継続望ましくなければ修正を行う。これは不確実性のもとでの政策判断という実践の一面を捉える点で魅力のある立場であるが、様々な問題も指摘されている。第二に、政治哲学の観点から公共政策を論じる研究を行っているウルフの研究からその方法を抽出し検討した。まず理論の役割を長期と短期に区別した上で、短期においては政策判断のための有用性に焦点を当てたいくつかの理論的思考がありうることを確認した。 2.事前分配とその他の選択肢の比較 事前分配政策の特徴を、社会保障政策のそのほかの類型と比較して位置づけた。特に、所得補填を中心的要素とする伝統的福祉政策、所得補填と就労要件を結びつける第三の道路線やアクティベーション、無条件金銭給付を行うベーシック・インカムといった政策類型との異同を整理した。 3.異なる規範的立場からの事前分配政策の支持可能性の検討 三つの規範的立場と事前分配政策の整合性を検討した。第一に、関係論的平等の観点から導かれる政策指針を、財産所有のデモクラシーの観念を手掛かりに検討した。さらに財産所有のデモクラシーと事前分配政策のつながりについても整理した。第二に、リバタリアン的立場から支持されうる事前分配政策として地価税の提案に関する議論を検討した。第三に、支配の不在としての自由を重視する共和主義の立場について検討した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は事前分配という社会保障の提案について、実現可能性と実際の導入の見通しを踏まえた規範的構想を提示することを目指している。研究が進むにつれて研究計画の微調整をしつつ、研究は概ね順調に進んでいる。2017年度は制度の比較政治的分析、公共政策学と政治哲学における政策評価へのアプローチ、平等の理念や社会保障制度に関する規範理論、の三つの観点から研究を進めた。これらは今後の研究の土台となるものである。 研究成果について、様々な機会に研究報告をした。たとえば2017年5月には現代規範理論研究会で事前分配の制度と哲学的構想について報告を行った。報告に対するフィードバックをもとに、事前分配という制度の特徴をほかの社会保障政策との比較で位置づけてより明確化する必要を認識し、研究に反映した。また、『政治学年報』に論文を投稿した(査読中)ほか、2018年7月開催のInternationale Vereinigung fiir Rechts- und Sozialphilosophieという国際学会での報告が認められており、事前分配政策を導く政治哲学的理念としての財産所有のデモクラシーの構想についての報告を準備している。
|
Strategy for Future Research Activity |
2018年度は次の三つの課題に重点的に取り組む。 第一に、手続き的正義の概念に着目し、事後的再分配とは区別される事前分配の特徴を示し、それへの異なる規範的立場からの支持可能性について一定の見通しを示す。手続き的正義は結果ではなくルールと過程の公正さに関わる点で、事前分配的政策と親和性の高い公正さの観念である。またこの観念は、実質的平等に反対するリバタリアンを含む広い立場からの支持を得やすいことを示す。 第二に、事前分配が分配対象とする財のひとつである物的資本と人的資本に焦点をあて、その政策としての具体的内実を検討する。事前分配政策の重要な目的として、就労を通じた充分な所得の保証がある。物的資本と人的資本へのアクセス保証はそのための主要な方策と位置づけることができる。それが取るべき具体的な形について検討する。 第三に、政策提案および政策評価の、複数段階の移行という観点を踏まえたアプローチの構築を目指す。公共政策学の議論は社会の現状を前提とするアプローチが有力である。一方で、規範的政治理論では理想的社会を想定した上で正義の要請を検討する理論(理想理論)とより不完全な社会における正義を問題にする理論(非理想理論)が区別される。さらに、両者をいかにつなぐかという問いが近年注目されている。それらの最新の研究成果を踏まえて、ある政策の導入が別の政策の実現可能性に与える様々な影響についての理論化を目指す。
|
Research Products
(1 results)