2017 Fiscal Year Annual Research Report
光合成電子伝達系「超複合体」の組み上げ機構:柔軟なアセンブリ様式とその意義に迫る
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17J09745
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
加藤 義宣 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 光合成 / 電子伝達系 / 超複合体構造 / アセンブリ |
Outline of Annual Research Achievements |
光合成NDH複合体は、光化学系I (PSI) サイクリック電子伝達系を触媒し、変動する光環境への順応に関わる。NDH複合体は2つの光化学系Iと連結して、NDH-PSI超複合体を形成する。Lhca5・Lhca6の2つのリンカーが結合を介在する。本研究では、光合成電子伝達系複合体同士がさらに連結した超複合体構造に着目し、その構造、組み上げ過程を明らかにすることを目的としている。 当該年度では、NDH-PSI超複合体構造の組み上げ過程に関する知見を得た。驚くことに、元々独立した機能を持つ複合体同士の連結に際して、NDH側が完全に組み上がる前から、一部のNDHサブユニットが先行して光化学系Iと結合していることを見出した。その後、他の部位が組み上げられるという柔軟なアセンブリモデルを提唱した。 加えて、これまでNDH-PSI超複合体構造は電子顕微鏡による単粒子解析像が得られていたが、この像にはNDH複合体の構成因子を厳密にアサインされていなかった。また、NDH複合体の両側に2つの光化学系Iが結合しているが、Lhca5・Lhca6どちらのリンカーがそれぞれの光化学系Iの結合を介在しているのか不明であった。本研究の解析では、これまで不明領域とされていた場所にNDH複合体のBサブ複合体が当てはまることを示した。また、NDH-PSI超複合体の可溶化の際に、NDH複合体の片側にのみ複数の光化学系Iが凝集する特性を利用して、Lhca5・Lhca6の結合を特定した。具体的には、Lhca6側の結合においてPSI凝集が発生していた。解析結果をまとめ、NDH-PSI超複合体の詳細な構造モデルを提唱した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、NDH複合体の組み上げを補助する因子CRR3の解析を通じて、NDH-PSI超複合体が組み上げられる過程を詳細に明らかにし、アセンブリモデルを提唱した。さらに、これまで解析されていなかった別の組み上げ補助因子NDF5の解析にも着手し、より詳細なNDH複合体の組み上げ過程の解明を開始しており、部分的に結果が得られている。また、被子植物では組み上げ補助因子NDF5が遺伝子重複を起こし、新規サブユニットPnsB2の獲得に繋がった可能性を見出し、現在この仮設の検証を行うなど、新たな研究の展開にも繋げている。 また、これまで明らかにされてこなかったNDH-PSI超複合体構造を生化学的に解析を行なった。先行研究において、電子顕微鏡による単粒子解析からNDH-PSI超複合体構造像が報告されたが、NDH複合体の構成要素を詳細にアサインされていない状況だった。本研究において得られた知見と電子顕微鏡像を合わせ、NDH-PSI超複合体の詳細な構造を明らかにした。具体的は、リンカーLhca5・Lhca6の位置の特定、これまでアサインされていなかったNDHのBサブ複合体の特定を行った。 翻訳段階におけるNDH複合体の組み上げ制御に関しては、リボソームプロファイリングの立ち上げには至ったものの、同様の研究が海外のグループから報告されたため、計画を変更した。しかし、上記で述べたようにNDH-PSI超複合体の組み上げ研究に関して、新たな展開に漕ぎ着けており、当初の予想とは異なるものの興味深い知見・成果を得られることが次年度において期待できる状況であるため、おおむね順調に進展していると自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度では、さらにNDH-PSI超複合体構造の詳細な情報を得るべく、近年実用ベースに発展したクロスリンク産物の質量分析による解析を新たに開始した。現在、クロスリンクの条件を決定する段階まで進展しており、海外の研究グループとの共同研究を立ち上げ、超複合体の構造決定に着手している。 加えて陸上植物における、NDH-PSI超複合体構造の変遷を明らかにすることを開始した。これまでは、被子植物シロイヌナズナにおける解析を主に行ってきたが、蘚類ヒメツリガネゴケを研究材料として使用することで、NDH複合体と光化学系Iの連結というダイナミックな構造変化がどのように行われたのかについて迫る。これにあたって、ヒメツリガネゴケにおける形質転換体の作出が必要となるが、既に候補株は得られており、複合体分離による生化学的な解析に着手している。 次年度が最終年度となるため、得られた成果を学術誌に論文として投稿する準備も並行して行う。
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