2017 Fiscal Year Annual Research Report
見出しのテンス・アスペクト・モダリティ研究―トルコ語・アゼルバイジャン語の対照
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17J09752
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
青山 和輝 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | トルコ語 / アゼルバイジャン語 / 複数接辞 / 可能形式 / 目的節 / テンス・アスペクト |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はトルコ語とアゼルバイジャン語という系統的、類型的に非常に近い言語のテンス・アスペクト体系の差異に関する研究であり、特にニュース見出しの分析を通じてその差異をつまびらかにすることが最終的な目的である。本年度はニュース見出しの分析が計画通りに進まず(後述)、より一般的な文法記述を進めることになった。年度を通じて資料収集、母語話者との対面調査およびSNSを介した意見交換を行い、国内で4本の口頭発表(うち1本英語)、1本の和文論文を投稿した。以下に扱った3つの主題を概説する。 1.トルコ語とアゼルバイジャン語の複数接辞について調査を行った。前者では接辞-lArが幅広い「複数」の意味を担うのに対し、後者では-lArと-gilによる厳密な使い分けが存在していることが明らかにされた。 2.トルコ語とアゼルバイジャン語の可能表現について調査を行った。トルコ語では可能形式-Abilが「能力可能」「状況可能」の双方をカバーするが、アゼルバイジャン語では-A bilが「能力可能」, -mAQ ol-が「状況可能」という使い分けが為されていることを詳細に論じた。さらに受身文が可能の含意を生む場合についても考察し、これに両言語のテンス体系の微妙な差異が関係していることも明らかにした。すなわち、トルコ語には属性叙述を行う屈折接辞-Xrが存在し、潜在可能の含意を引き出しているが、アゼルバイジャン語の対応する-Arには属性叙述の機能がなく、可能の含意は発生しない。 3.トルコ語に存在する目的表現の使い分けについて調査を行った。特に二次的目的節-mAk uzereやOPT/IMP diyeの意味的制約、使用条件への考察を深めた。またこの過程でトルコ語の可能動詞が(たとえば日本語とは異なり)状態的な解釈を受けないことを明らかにした。この主題に関して、アゼルバイジャン語との対照は平成30年度の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
トルコ語、アゼルバイジャン語に関する文法研究自体は大きく進展した。国内で4本の口頭発表(うち1本英語)、1本の和文論文を投稿したが、これは当初の計画を上回る十分な成果と感じている。しかし、以下2点の理由により、進捗は当初計画よりやや遅れていると考えている。 1. ニュース見出しの分析は進行が遅れている。既に前年度に購入していたアゼルバイジャン語の新聞7日分を業者に委託し、デジタル化およびOCR処理を行った。アゼルバイジャン語に対応したOCRソフトは存在しないため、業者にサンプルを送らせ品質を確認したうえで委託したが、実際納品されたデータの品質は当初提示されたサンプルよりかなり悪く、手作業で多くの修正をしなければ見出しの研究には到底使えないものであった。このためニュース見出しを軸にした研究は停滞してしまった。 2. 2018年3月、文献収集及び対面調査を目的に、トルコへ現地調査へ赴いたが、一部コンサルタントは相手方の緊急の事情によりやむを得ず調査を断念した。そのためインターネットを介した簡便な調査は問題なく行えているが、対面インタビュー形式の調査が不足している。今年度はそのような調査を当初計画に追加し、重点的に行う必要がある。 以上の要因から、当初の計画は外堀から着実に埋められているものの、本質的に進捗はやや遅れていると判断せざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は海外調査を1回、国内学会での発表を数回、論文を1本程度計画しているほか、既に1件の国際学会口頭発表が決定している。研究の具体的内容としては、前年度の研究成果のうち、トルコ語のみ扱っていたものをアゼルバイジャン語に拡大すること、および前年度末の調査結果を活かしつつ、テンス・アスペクトに関する研究を加速することが挙げられる。
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