2017 Fiscal Year Annual Research Report
ホスファチジルセリンの局在制御を介する新規細胞機能の解明
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17J09766
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
菅原 小莉 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | ホスファチジルセリン / リサイクリングエンドソーム / フリッパーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞内ホスファチジルセリン(PS)の細胞内局在の制御機構の解明を目指し研究を行った。PSは生体膜を構成するリン脂質の1種だが、頭部に負電荷を持ち、タンパク質との相互作用を介して様々な生理現象に関与することが知られている。PSが細胞膜に豊富に存在することはよく知られているが、細胞内小胞輸送に関与するリサイクリングエンドソームと呼ばれるオルガネラにもPSが多く、小胞輸送や細胞増殖を制御することをこれまでに当研究室で見出していた。そこで私は、PSがどのようにリサイクリングエンドソームに局在化するか、そのメカニズムの解明を研究目的とした。 当該年度は、PS量の変化を鋭敏に感知するPSプローブGFP-EHD1(delta EH)を用いることで、ステロール結合性タンパク質ORPファミリーのORP10が、PSのリサイクリングエンドソーム局在に関与することを見出した。その後の詳細な解析により、ORP10はゴルジ体に局在することを見出した。さらに、ゴルジ体のPI4PがORP10の局在を制御する可能性、さらにゴルジ体のPI4PがPSのリサイクリングエンドソーム局在を制御する可能性を示唆した。 さらに、当研究室で作成した2種類のPSプローブを用いて、脂質輸送タンパク質ファミリーの発現抑制による影響を検証したところ、糖脂質代謝に関わるGLTPとCERTの発現抑制によって、PSがリサイクリングエンドソームからリソソームへ局在変化を示すことを見出した。 また、リサイクリングエンドソームに局在するPSフリッパーゼATP8A1の翻訳後修飾による活性制御機構の解析を進めた。In vitroの実験結果から、リン酸化はATP8A1の活性に直接に影響せず、結合タンパク質を介して活性を制御する可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
PSのリサイクリングエンドソームへの局在化制御機構に関して、脂質輸送タンパク質ファミリーに着目した解析から、まずORP10がPSの局在化に関与する可能性を見出した。ORP10に関してはその局在を詳細に解析し、ゴルジ体局在であることを見出した。さらに、ORPファミリー以外の脂質輸送タンパク質のうち、糖脂質代謝に関与するGLTP、CERTがPSの局在に関与する可能性を見出した。当初は、発現抑制によりPSプローブの膜局在が完全に消失するものを目的遺伝子として想定していたが、そのような遺伝子は得られなかった。その中で、GLTPやCERTの発現抑制によりPSプローブがリソソームへ局在変化する予想外の結果が得られた。 また、リサイクリングエンドソームに局在するPSフリッパーゼATP8A1は、リサイクリングエンドソームの細胞質側脂質層にPSを濃縮することで小胞輸送を制御することをこれまでに当研究室で示している。そこで、ATP8A1が翻訳後修飾により活性制御を受ける可能性を考え、リン酸化に着目した解析を行った。データベースをもとに実際に解析した結果、Ser29がリン酸化されることがわかった。当初、Ser29Alaの変異体において、ATP8A1のATPase活性が低下したことから、リン酸化によりATP8A1の活性が亢進することが期待された。しかしながら、in vitroにおいてATP8A1をホスファターゼ処理によって脱リン酸化し、そののちにATPase活性を調べたところ、活性に差は見られなかった。このことから、ATP8A1のSer29のリン酸化は活性に直接影響せず、Ser29自体またはリン酸化を介した間接的な作用によってATPase活性を調節していることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
PSのリサイクリングエンドソームへの局在化制御機構に関して、GLTP、CERTが関与する可能性を見出した。今後、スクリーニングとは異なるsiRNAオリゴを用いた再現実験を行う。再現性が確認されたのちに、レスキュー実験によりオフターゲットの可能性を検証する。オフターゲットの可能性が否定されれば、GLTPやCERTの発現抑制によりPSの局在がどのように制御されるか、糖脂質やスフィンゴ脂質などの他の脂質の代謝との関連も含めて詳細に解析する。 ところで、定常状態においてPSは細胞膜とリサイクリングエンドソームに局在化するが、その生合成酵素PSS1/2は小胞体に局在することが知られる。骨の形成異常、四肢の形態異常、精神遅滞等の症状がある遺伝性疾患Lenz-Majewski症候群は、PSS1のヘテロ優性変異が原因であることが過去に報告された。この疾患の変異型PSS1は、産生物によるフィードバック制御がかからずPS合成が過剰に亢進する。興味深いことに、変異型PSS1を過剰発限した細胞ではPSが小胞体に異常に局在することがわかっており、PSの局在異常が疾患につながる可能性が考えられる。今後、変異型PSS1によって疾患が引き起こされるメカニズムの解析を目指し、PSの局在と生理現象の関連を明らかにする。
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