2018 Fiscal Year Annual Research Report
The Production of Locality in Refugee Camps
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17J09937
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
村橋 勲 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 難民キャンプ / 人道支援 / 食糧援助 / 帰属意識 / ロピット / 階梯式年齢制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ウガンダやケニアなど周辺国に離散した南スーダン難民が、難民キャンプでいかにローカリティを生産し、また、帰属意識を形成しているかを明らかにすることである。 平成30年8月にウガンダのキリヤンドンゴ難民居住地における臨地調査では、UNHCRとウガンダ政府が行う緊急人道支援の変化と、それに応答する難民の生計戦略に関する調査を行った。臨地調査では、食糧援助の仕組みの変化が生じた背景と、それによる難民の生活への影響について聞き取り調査を行った。調査時には、食糧援助と現金給付を選択可能なものとなっており、すべての難民が給付を受けることができるようになっていた。臨地調査では、難民と当局との間の協働、妥協、せめぎあいのなかで、いかに難民登録が操作され、非公式の経済が生み出されていたかを明らかにした。 南スーダンのロピットに関する調査では、ロピット難民によるCBOの活動に参加しながら調査を行った。このCBOは、ロピット難民が、故郷喪失と長期の難民生活によって土着の言語、口頭伝承、雨の首長や階梯式年齢制度などに関する歴史の保存を目的で設立された。 平成30年度は、ケニアだけでなく、南スーダンのジュバに暮らすロピット人インフォーマントとウェブや電話で聞き取り調査を行いながら、ロピットの下位集団それぞれに関する歌、口承史、首長、階梯式年齢制度、世代交代儀礼に関する聞き取り調査を行った。また、19世紀後半から20世紀前半にかけてのロピットへの外国の影響、とくにエジプト支配とイギリス植民地統治の影響を明らかにするため、イギリスのダラム大学スーダンアーカイブにおいて植民地行政官が残した公文書の収集と分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は、2014年から継続調査を行ってきたウガンダの難民居住地での臨地調査のデータを「難民のモビリティ、秩序化、日々のアナキズム――人道主義的統治における南スーダン難民の社会生活」と題した博士論文にまとめ、大阪大学大学院人間科学研究科に提出した。平成31年3月に博士号(人間科学)を授与された。 研究発表に関しては、平成30年5月、札幌で開催された日本アフリカ学会第55回学術大会において、ウガンダのモル難民が組織するNGOやCBOに関する口頭発表を行ったほか、7月、ブラジルで開催された第18回IUAES(国際人類学・民族学科学連合)において、南スーダン難民が、擬制的な「家族」を作ったり、家族のメンバーを故郷や他の難民居住地に分散させたりすることで日々の窮状に対処するという難民の「家族」戦略に関して口頭発表を行った。また、平成31年度4月に京都で開催された日本ナイル・エチオピア第28回学術大会においては、19世紀から20世紀前半におけるロピットでの首長制に関する考察について口頭発表を行った。 アウトリーチ活動に関しては、平成30年5月に韓国で開催されたソウルアフリカフェスティバルにおいて、南スーダン難民の生活の再構築とコミュニティ形成に関するポスター発表を行ったほか、12月に南スーダンの紛争をめぐるメディア報道に関する公開講座を国内で開催した。また、現代思想第46巻13号に、非正規移民の考古学について論じた英語論文の翻訳を掲載した(古川不可知と共訳)。 このほか、平成30年3月に共著で出版された『地域研究からみた人道支援』(湖中真哉・太田至・孫暁剛編著)が、第8回地域研究コンソーシアム賞と国際開発学会2018年度特別賞を受賞した。
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Strategy for Future Research Activity |
調査に関しては、これまでの2年間に引き続き、東ナイル系農牧民、ロピットの集落史、首長、階梯式年齢制度に関する神話、歴史、歌などの一次資料の収集と分析を行う。8~9月にかけてカクマ難民キャンプで現地調査を行い、カクマ難民キャンプで形成された市民社会組織、Lopit Wirting Projectのメンバーおよびウガンダや南スーダンに暮らす複数のロピット人をインフォーマントとして参与観察と聞き取り調査を行う。 また、昨年、提出した博士論文を基に、ウガンダにおける人道支援と難民の生計に関する単著の執筆と出版を予定している。 国内の研究発表については、5月、京都で開催される日本アフリカ学会第56回学術大会において、ウガンダの難民居住地における非公式の経済について口頭発表を行う。また、6月、仙台で開催される日本文化人類学会第53回研究大会においては、南スーダン難民の越境と彼らとウガンダ人との間で生み出される新たな社会関係について口頭発表を行う。この研究大会の分化会にそくした形で、分科会の参加者と共著で図書を出版する予定である。 国際学会に関しては、8月にはポーランドで開催されるIUAES2019Inter-congress(国際人類学・民族学科学連合)で、ウガンダにおける南スーダン難民の未来創造に関する発表を行う。
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Research Products
(5 results)