2018 Fiscal Year Annual Research Report
環境中の生育速度を加えた微生物メタゲノム解析とゲノムへの展開
Project/Area Number |
17J10014
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
鈴木 真也 東京工業大学, 生命理工学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 生育速度推定 / メタゲノミクス / 統計モデリング / 円周統計学 / ゲノム科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の成果として、昨年度に開発した微生物の情報解析パイプラインのさらなる評価を行い、先行研究より得られたDNA配列データへ適用し、環境中における微生物の生育速度について新規の知見を発見したことを報告する。 昨年度の成果により、微生物の複製によって生じるDNA量の偏りを表現する統計モデルを開発した。昨年度はこの手法の評価に注力し、実験的な生育速度との比較を実施して、偏りの大小の比が相関することを確認していた。即ち、推定した偏りの大きさから生育速度を推定することが可能であることを示した。今年度は、得られた推定量がどれほど頑強性を維持して推測が可能であるかを評価するために、データ量を増減した際の値のばらつきを評価することで、頑強性を更に評価し、先行研究より安定した推定が可能であること検証した。この結果、本手法が先行研究で提案した手法と比べて、頑強に生育速度を推定することが可能であることが分かった。更に統計モデルの拡張を実施することで、DNA量の偏りに、既存の手法では無視されてきた新規の特徴があることを明らかにした。加えて、より複雑なゲノム構造を持つ微生物についても手法が適用可能であるようにモデルを拡張して、同様に生育速度が検出可能であることを示した。以上で構築された手法は、先行研究により得られているメタゲノム配列データについて適用し、先行研究による検出と同様の再現性を確認したほか、常在細菌の定着によって生育速度が変化していく様を観察している。現在は以上の研究成果を論文として発表するために準備を整えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究目的と比較し、本研究はおおむね順調に進展していることを報告する。当初の計画では、2年目ではメタゲノム配列から構築したドラフトゲノム配列を用いた解析手法の確立と、実際のメタゲノム配列への適用を目標としていた。微生物の生育速度推定では、本研究を立案してから実施へ移る間に、新しくアセンブルしたドラフトゲノム配列を用いて推定を実施する手法が提案された(Brown et al., 2016, Nature Biotech.)。そのため、当初の計画通りにドラフトゲノム配列を利用した解析手法の確立を目指した場合、新規性が既に失われているという問題点があった。当時の時点でこの傾向は続くと予想され、実際昨年度に入ってから、複数の類似研究が報告されている(Gao&Li, 2018, Nature Methods; Emoila&Oh, 2018, Nature Comm.) 。しかしそこで調査を続けたところ、ドラフトゲノム配列ではなく、ゲノム配列全体を用いたDNA量の変化それ自体の解析方法についてが未だに十分に検討されていないことが明らかになった。そこで方針を転換し、昨年度に確立した方法をより進展させて、ゲノム配列全体からより詳細な動態の特徴を計測する手法の確立を目指した。その結果として分布の偏りの大小に限らない、より広範な計測が可能となった。この手法は先行研究より得られたメタゲノム配列にも適用し、環境中での動態について新たな知見を得ることに成功している。 以上のように、今年度は手法の確立と実解析への応用を達成したため、順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は先ず、昨年度までの成果を纏め、論文として報告することを目標とする。続けて環境中の生育速度と、別途計測されたメタデータの比較を実施して、生育速度の増加や減少をもたらす因子について探索することを目指す。そのためには、まず推定値に影響を与える因子を見つけ出す必要がある。これにはメタデータを特徴量としたスパース推定や正則化付き回帰を実施することで、生育速度をどれほど正確に予測できるか検証することを計画している。これによって、複数のメタデータから生育速度を決定しうる値が判別しうる。発見の後には、先行研究等の報告と照らし合わせ、遺伝子オーソログなどとの関連性を議論し、別途報告を考える。
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