2017 Fiscal Year Annual Research Report
マレーシアの発展と「機会不平等」―民族間・階層間格差の実態と社会的認識の実証研究
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17J10104
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 李歩 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | マレーシア / 地域研究 / 民族 / 社会階層 / 教育機会 / 就業機会 / 社会の発展 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、民族間での処遇の差異と、階層間の格差とが絡み合う独特の不平等状態に特徴づけられるマレーシアが、周辺諸国に比べ「安定的」な発展を遂げてきた理由の解明を社会学的観点から試みるものである。平成29年度は以下の活動を主に行った。 ①人口センサス(1970~2000年)個票データを用いての計量分析と、分析結果をもとにした学会発表・論文執筆:1970年以降のマレーシアにおいて、個人の地位達成の過程に対して各民族属性がどのような効果を持ち、特に教育に関する優遇政策がそれにどのように影響してきたかを明らかにする分析を行い、日本教育社会学会にてその結果の口頭発表を行った。分析結果からは、優遇政策がそれなりに「有効に」機能したと考えられる一方、教育を介さない部分で、優遇されなかった側の(特に中国系の)人びとがより高い職業的地位への到達を果たすこともできていたことが示唆された。東南アジア学会における口頭発表では、そこから更に一歩踏み込み、そのように民族優遇政策と民族属性の効果が相殺し合うような形になったことで、優遇政策下においても民族間の地位配分のバランスが維持されていたのではないか、という考察を提示した。また、そのような民族間の地位配分バランスを維持する鍵となった、中国系の人びとによる教育を介さない職業的地位達成の方途(ルート)を探ることが今後の中心的課題となることを把握したため、予備的に自営業就業に着目して基礎的な検討を行った。 ②就業機会の不平等に対する認識を明らかにするようなテキスト資料の収集:就業機会に関する平等性を問題視する言説は教育機会に関するそれに比べ鮮明に顕れないものの、公務員就業に関する不平等や(一部の中国系の自営業者としての就業先となったと考えられる)中小企業を含む私企業の活動への障壁となる政策についての一定の言説が見られることを把握した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下の理由により、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。①研究計画において予定していた計量分析を行い、新たな知見を導き出せた。ICPSR Summer Programに参加し、数学的な構造も含め統計についての理解を深めると同時に、分析手法適応時の工夫や注意といった知識を得たことが計量分析の実施時に活かされた。②民族間の就業機会の不平等性に関する言説の収集と検討を行い、研究全体の仮説の検証に際し重要な状況把握ができた。③平成30年度に実施予定のモニター調査について、パートナーとなり得る現地の調査会社にアプローチし、調査の条件について相談・交渉を行えた。④計量分析の結果および考察をまとめた論文は投稿にこそ至らなかったものの執筆が進んでおり、近く学術誌への投稿が望める。⑤学会発表に関してはディシプリン系と地域研究系の学会で行うことができ、更にそれぞれで得た本研究の位置づけや研究方法についてのフィードバックを論文執筆や今後の研究遂行方針の検討に活かせている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は以下の点について取り組むことを予定している。①計量分析の結果と考察をまとめた執筆中の論文を完成させ投稿する。②現地の調査会社がパネルを有するモニターに対する質問紙(オンライン)調査と、回答者の一部に対するインタビューを行う。③民族的な特性のある集団(同郷・同業等を想定)における、成員の教育と就業に関する方略について、インタビュー調査および資料の収集・分析を通して検討する。④それらの調査の結果から、中国系による教育を介さない職業的地位達成の方途について考察すると同時に、他の民族における教育達成と職業的地位達成の関係についても知見を導き出す。 当初の仮説を立てた時点では、マレーシアには、民族間で教育機会と就業機会に関して同様の不平等が実態として存在し、人びとにもそのように感じられている、ということを想定していたが、計量分析および言説の収集を行う中で、両者の間には重要な差異・ギャップがあり、それが実はマレーシア社会の発展を説明する上で肝要なのではないか、と考えるに至った。今後はそのギャップについて説明するために重要と考えられる集団に属す人びとに対象を絞り、彼らの地位達成に関する行動を(既存のデータにはないレベルで)より具体的に把握し、また彼らの意識(テキスト上には表れないようなもの)により深く迫ることを可能にするようなデータの収集と分析を行うべく、②・③の調査の実施を計画している。
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Research Products
(2 results)