2017 Fiscal Year Annual Research Report
組織のフラット化を支えるコミュニケーションと「自己記述」
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17J10141
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
樋口 あゆみ 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 組織エスノグラフィー / 組織社会学 / ルーマン / 知識労働者 / 協働 / 時間感覚 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒエラルキー型ではないフラットな組織運営のあり方は、イノベーションの創出や組織のコンプライアンスの強化など、現代的な問題の解決を担うものとして注目されてきた。本研究は、このフラットな組織運営のあり方を、企業のフィールドワーク調査を通じて実証的・理論的に解明しようとするものである。本年度は特に企画立案の場面に着目し、成員同士が企画立案をする過程で形成・共有される、組織独自の時間感覚に関して研究を進めた。 第一に、新規性の高い商品や記事を企画する組織は、企画の場面での意思決定で、従来の条件絞り込みと捉えられる決定形式とは異なる形式を持つことを見出した。その場合、意味を生成・発見していく創発的な決定がなされるが、その際には一般的に前提とされている、直線的に流れ去っていく時間感覚とは異なる時間感覚がみられることも明らかにした。これは組織論における中心的課題である意思決定について、固有の時間性という新たな視点から解明する可能性をもっており、理論的にも実証的にも大きな進展が見込まれる。 第二に、社会学では直線的に流れ去る以外の時間感覚が従来から指摘されてきたが、その関心はもっぱら個人の時間感覚に集中していた。本研究ではこれまで視野の外に置かれていた、組織のなかで創設・改変・廃止をともなう制度内で共有される時間感覚に光を当てている。社会的に構成される時間を考察する際に、個人および相互作用以外の、組織の水準での社会的時間の構成は社会学的な時間論の解明の一端としても重要な課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
F.テイラー『科学的管理』のような古典をはじめとして、組織にとって時間管理は重要な課題であり続けてきた。その意識は主に標準的管理や時間的短縮……つまり、いかに時計的な時間に人々の行動を合わせていくことで業務の同期や改善を可能にするか、組織の環境に対する反応速度を上げるかに重きが置かれてきた。しかし知識労働における時間には、時計に従った時間とは別の側面が見出される。 それはとりわけ企画の場面や新規事業において顕著だが、組織の成員は、ある決定や合意を参照点とすることで、企画進行中の出来事をひとつのまとまりとして時間の過去・現在・未来の区分を行っていることがフィールドワークでの観察を通じて判明した。成員は、新しい意味づけをつくり上げるなかで企画の核を発見し、それを受けて次の決定がなされていくような連鎖の只中に置かれているために、成員自身が「現在ばかりがある」と表現されるような感覚を抱いている。これは、時間が絶えず一定に流れ去っていくという一般的な時間感覚と、そうした時間に沿った計画および決定をしていくとしてきた従来の組織の意思決定および時間感覚とは決定的に異なる現象である。それらの成果を、組織学会年次大会で報告した。 このような意思決定と過去・現在・未来の対応は、社会学においては個々人の主観的時間感覚として既に多く記述・分析されてきたものの、組織内における集合的決定と関連付けて分析された研究は少なかった。例外的にK.ワイクが、未来完了思考といった語彙を用いつつ、意味生成と企画、そして時間表現を関連付けて組織の協働を描いたが、もっぱら示唆的な段階にとどまっており、両者の関係は明示されなかった。この成果は、日本社会学会で報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究ではフラットな組織運営に関して、(1)日々の組織運営におけるコミュニケーションの特徴やコスト、規則が果たす役割についてのヒエラルキー型組織運営との実践的な相違点、(2)企画立案や進行の際に構成される組織独自の時間感覚と意思決定形式との結びつきを明らかにしてきた。今後は(2)の意思決定と時間感覚という理論的視角の考察を深めることで、ヒエラルキー型組織における時間感覚の現れ方と対比し、(1)の実践的相違点との関連を明らかにする。そうすることで、官僚制の逆機能とされてきた前例主義(過去重視)などの特徴とフラットな組織との共通点と相違点をより具体的に明らかになると想定される。
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Remarks |
研究成果の一部を、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー誌(WEB版)に一般向けに書き下ろして公開した。
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Research Products
(4 results)