2018 Fiscal Year Annual Research Report
19th Cebntury International Relations of East Asia over Ryukyu
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17J10174
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
張 子康 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 琉球 / 福州 / 宣教師 / 尚家文書 / 胥吏 / 幕友 / 通事 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究実績は大きく以下の二点ある。 第一に、琉球西洋間交渉における通事の働きを分析した前年度の研究実績を、投稿論文の形に結実させた。その上で、上記課題をさらに発展させ、同時期の長崎オランダ通詞との比較を加えて、近世から近代への時代転換期における東アジアというより広い舞台において、通事が果たした役割を特に前近代との比較を通して検討し、国際シンポジウムにおいて英語発表を行った。 第二に、琉球西洋関係に続いて、同時期の琉球-中国関係の研究に入った。その中でも、琉球から清に対して行われた「逗留西洋人退去請願運動」を取り上げた。これは、道光24年(1844年)仏アルクメーヌ号の来航と宣教師フォルカードの逗留を嚆矢として、彼の後継者であるルテュルデ,アドネ、道光26年(1846年)イギリス人宣教師ベッテルハイム一家が逗留したこと、更には仏提督セシルによる和親・通商要求などを受けて、宣教師たちの退去及び交渉取りやめを、清の力に頼って果たそうと琉球側が複数回、あるいは通常の進貢使節に言付けて、あるいは特使を仕立てて派遣し、清に働きかけた一連の動きである。従来の研究が「王府」「福建当局」「皇帝」間の文書のやり取りを中心に、国家間の大きな枠組みでこの問題を論じてきたのに対し、本研究では、請願運動が主に行われた場であり、琉清間交渉の主たる場であった福州に注目し、実際に派遣された琉球側の使者と、福州において彼らに対応した清朝側諸衙門の役人(胥吏・幕友)たちの働きの実態とその意義を中心に考察した。これを通して、第一に、伝統的な朝貢関係の下で、琉球がいかなる手段を用いて自らの願いを通したのかを解明するとともに、第二に、福州駐在イギリス領事の存在が琉清双方に与えた影響を考察することで、「伝統」と「近代」の交錯する場としての福州を提示し、そこにおける琉球の主体的な働きを明らかにすることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の主要研究課題である琉球-中国関係について、本来目標としていた年度内の論文投稿には至らなかった。しかしながら、未刊行史料『尚家文書』をはじめ、史料の読解は順調に進みつつある。特に、当該時期の琉球史を研究するにあたり、最重要史料と目される『尚家文書』は、刊行されている『琉球王国評定所文書』中には未収録の史料が多く、様々な新史実を発掘できている。例えば、尚家文書六二〇号「異國一件唐より御問合抜書」は、1843年(道光23年)から1852年(咸豊2年)の時期に、福州あるいは北京における琉球使節が本国へ送った業務報告の一部であり、そのほとんどが西洋人退去請願に関わるものである。同史料中には全23件の報告が含まれており、そこには各使節の福州における交渉過程が極めて詳細に記されている。 研究を進めるにあたり、沖縄において尚家文書等の史料収集を行い、また国立国会図書館で史料・文献調査を数ヶ月に一度の頻度で行った。本年度も引き続き、若手琉球史研究者の会合に定期的に参加し、情報交換や自らの研究に対する助言を得た。東洋史研究会大会、東方学会大会等全国規模の学会、シンポジウムへも積極的に参加した。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、琉球・清(中国)・薩摩(日本)・西洋の各者の関係性を探っていく。 特に、琉球-薩摩間の関係性を対象とする。これまで検討してきた琉球-西洋、琉球-清朝の関係において、申請者は実際に接触・交渉が行われた「場」とそれを担った「人員」に着目し、琉西関係においては琉球側の通事係を、琉清関係においては福州における琉球使節と河口通事、中国側の胥吏・幕友といった人員に着目してきた。本年度の研究もこれにならい、1当該時期における鹿児島琉球館の役割を、特にそこに駐在した琉球役人たちの側面から検討するほか、2薩摩の琉球における出先機関である在番奉行についても、従来の研究が見出した課題を展開させ、薩摩藩の影響力を正しく把握した上で、琉球が発揮し得た主体性について考える。これまでの研究を統合するにあたって、3通事係を輩出した首里の中下級士族、存留通事ら渡唐使節として中国へ渡った久米村人、鹿児島琉球館に派遣される役人たちが、琉球国内において、どのように相互に位置付けられていたかを分析する。 史料については、前年度に引き継づき、未刊行史料である尚家文書の利用を中心に据える。現在尚家文書は沖縄県内のみにて入手が可能なため、沖縄への史料調査は複数回必要となると見込まれる。合わせて、鹿児島における現地調査も不可欠である。 琉薩関係史は重厚な先行研究の蓄積を有する分野であり、関連書籍も膨大であるため、引き続き必要な資料収集につとめていきたい。また、申請者の本年度のテーマについて、沖縄県内では数多くのシンポジウムや学会が開催されており、これらに積極的に参加し、自らも発表を行う。同時に、申請者の研究は常に東アジア地域という広がりを意識したものであって、東洋史やグローバルヒストリーなどを冠した学術交流についても、積極的に参加していきたい。
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