2017 Fiscal Year Annual Research Report
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17J10496
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西川 宜彦 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | モンテカルロ法 / 相転移 / カイラル磁性体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年ははじめに、スピン系において重なり変数を秩序変数として用いた際に検知できる秩序の検討を行った。重なり変数は二つのレプリカそれぞれの波数ベクトル依存の磁化を用いて書くことができる。従って、系が複数の波数ベクトルに依存する磁化で特徴付けられる複雑な秩序を持つ場合であっても、重なり変数を用いればその秩序を検知できる。さらに、重なり変数を用いて相転移の臨界指数を評価した場合に必要な補正が明らかになった。 次に、二次元カイラル磁性体におけるスキルミオンが示す相転移の研究を行った。スキルミオンは多数のスピンから構成されるトポロジカルに安定な磁性の渦である。本研究では、二次元カイラル磁性体中のスキルミオンを有効的に二次元空間中の粒子と捉えることで、二次元粒子系との関連から解析を行った。二次元粒子系の融解転移ではKTHNY理論により、位置秩序と配向秩序が重要な役割を持つことが知られている。本研究ではGPUを用いた大規模な並列計算によって二次元カイラル磁性体のモンテカルロシミュレーションを行った。その結果、有限の低温で配向秩序は長距離相関を保つものの、位置秩序は準長距離相関となり、二次元粒子系と同じ固体相であることが分かった。系は連続対称性を持たないため、位置秩序の長距離相関はMermin-Wagnerの定理では排除されないにも関わらず、準長距離相関しか持たないことになる。さらに温度を上げると、二つの秩序が同じ温度で短距離相関となり、液体相へと一段階の融解転移を起こす。この融解転移は通常の二次元粒子系で知られている二段階の融解転移とは異なる。これはスピン格子に起因する周期ポテンシャルの影響であり、実際に周期ポテンシャル中の粒子系に対するKTHNY理論と整合することを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年は、重なり変数を秩序変数として用いて臨界現象を調べた際に現れる臨界指数の評価の補正や、重なり変数の秩序変数としての適用範囲を明らかにした上で、二次元カイラル磁性体が示す相転移の研究を計画していた。研究実績の概要で述べたように、二つのレプリカ間の重なり変数は、それぞれのレプリカの波数依存する磁化を用いて書くことができるため、一般に周期構造が現れ、低温で長距離相関を示す相転移の場合には重なり変数によって相転移を検知できることがわかった。実際にこれを用いることで三次元カイラルらせん磁性体が磁場中で示す相転移の普遍性クラスを決定することに成功した。ところが、重要な秩序変数が二つ存在する二次元カイラル磁性体に用いた場合、明らかに重なり変数ではどちらか一方の秩序しかとらえることができない。従って、このような系では重なり変数のみを秩序変数として考えた場合には相転移の特徴をうまくとらえることはできず、別の秩序変数が必要であると予想される。そこで本研究では二次元カイラル磁性体を、二次元粒子系の理論に基づいて位置秩序と配向秩序の二つから調べることで、相転移と低温での性質を決定することができた。その結果はすでに論文としてまとめたほか、重なり変数を三次元カイラルらせん磁性体へ適用した結果も現在論文として執筆を行っている。そのため、おおむね順調に研究は進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、一年目に行った二次元カイラル磁性体の有効模型である古典粒子系を用いたさらなる大規模なシミュレーションを計画している。これによって二次元カイラル磁性体の相転移の理解や定量的な評価をさらに深められるだけでなく、古典粒子系の融解転移のKTHNY理論における大きな進展となることが期待される。 二次元カイラル磁性体の研究に加え、重なり変数の適用範囲をさらに広げるために、ガラス転移への応用を計画している。ガラスは非周期的な構造を持つため、並進対称性がある場合には重なり変数で秩序をとらえることは難しいと予想される。そこで本研究では、二つのレプリカ間に引力相互作用を導入することで、重なり変数によってガラスの秩序をとらえることを目指す。具体的には、これまでの研究で相転移の存在が示唆されている模型に注目し、そこに現れる遅いダイナミクスが重なり変数でとらえる秩序と相関を持つか否かを明らかにする。また、二時間相関から定義される動的相関長と重なり変数から定義される相関長との関係にも注目する。
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Research Products
(5 results)