2017 Fiscal Year Annual Research Report
現代における宗教実践と多元的医療行動に関する研究:ベナン南部の事例より
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17J10569
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
村津 蘭 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | ベナン / 多元的医療 / 宗教人類学 |
Outline of Annual Research Achievements |
■フィールド調査 本研究は、フィールドにおける参与観察や聞き取りデータ、撮影データを基にする人類学的研究である。本年度は、2017年10月~11月、2018年3月に、ベナン共和国アトランティック・リトラル県において、フィールド調査を実施した。密接な関係 その結果、特に治療のために宗教団体を訪れる人々の多くがまず近代的病院において「分析」を受け、その後に宗教団体での治療を受けていることが明らかになった。宗教団体における治癒は、一つの治療行為によってのみ起こるのではなく、宗教団体の聖地に着いた瞬間によくなった例や悪魔祓いにより改善した例など様々な形態があること、また症状も心因性と思われるものから、失明、手足の痺れ、熱などの身体的な症状など多岐にわたることがわかった。特に集中的に調査している教会が、多くの人々を「治癒」しているのは、強いカリスマを持つ唯一の教祖の存在と、治癒にまつわる多様なマテリアリティと言説にという、相互の力作用が働く場を形成できているからであるといえる。多様な形での治癒、治癒した人々に、治療の行程とその時の身体的感覚について集中的に聞き取りを行った結果、「宗教的言説」と「身体的感覚」「マテリアリティ」がどのように作用して「治癒」」という状況が起きているかを明らかにすることができた。 ■文献調査・研究会参加 ベナン共和国における宗教・医療の先行文献について調べると共に、国立民族学博物館における宗教人類学の研究会に参加、呪術的状況における身体の役割や効果について議論を深めた。海外における研究動向も研究の議論に取り入れるため、イギリスで行われたアフリカ宗教研究者の国際コロキアムやフランスのEHESSとの共同シンポジウムで発表を行い、意見交換を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度のフィールド調査においては、特に宗教的治療について大きな成果を得ることができた。本研究はベナンにおいて注目されている宗教団体にアプローチすることで、人々の現代的な問題と関心について炙りだそうとしているが、それら信者から礼拝などを共にする中で一定の信頼関係を築くことで、聞き取りが順調に実施できた。信者の内で、宗教的・近代医療的な治療を受け、成果を実感した人々に特に、集中的な聞き取りを行い、治療を求める人々の治療希求行程、及び、治療行為と効果の関係について、多くの事例を集めることができた。 一方で、フィールドにおける倫理審査委員会の手続きが、想定以上に煩雑で時間がかかっており、近代医療施設での調査については、当初予定より遅れが生じている。来年度以降の課題である。 また、本年度は国内・国外における発表を積極的に実施し、研究テーマに関わる領域への認識を深めると同時に、研究成果の国際的な発信を行った。国際的に宗教人類学者の主催する研究会に参加し、発表するなど、今後の研究の進展と発信に寄与する関係を培ったといえる。また、フィールドで撮影した民族誌映画も国際的映画祭や国内の学会の場で発表し議論することで、方法と成果共有の両面において新たな地平を開拓できた。 以上により、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、近代医療に対するフィールド調査を実施すると共に、医療人類学についても国際的な学会などで発表・議論を重ね、研究を深めていく予定である。また、映像を研究方法とアウトプットにおいてどどのように用いられるかを検討するため、芸術分野との連携も図っていく。フィールド調査と、他領域も含めた国際的な場での発表の往還の中で、研究成果を先鋭化していく。 今年度は、以下のような研究を予定している。4月~8月:現地調査で得た情報を整理する。映像と音声については編集すると共に詳細な分析を行う。5月に日本文化人類学会の学術大会で、調査についての口頭発表を行い、発表内容を英文雑誌に投稿する。6月に映像人類学のアウトプットの方法の実験のために、京都の芸術大学のギャラリーで作品の発表、上映会を行う。7月に、ブラジルの国際民族学・人類学学会において、医療人類学について発表を行う。 9月~1月:4ヶ月間ベナンで現地調査を行う。都市部・村落部の病院で診察の参与観察、及び、患者と医療従事者に聞き取り調査を実施する。また、宗教的に治療行為を行う団体において、参与観察を実施するとともに、治療の従事者及び患者にたいして聞き取り調査を実施する。特に、患者の治療行程や、治療時に起こる感覚に留意しながら、インタビューを実施する予定である。1月~3月:調査結果をまとめる。
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Research Products
(7 results)