2017 Fiscal Year Annual Research Report
5’非翻訳領域にコードされる、ミトコンドリア局在タンパク質の機能解明
Project/Area Number |
17J10651
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
山下 仁義 東京工業大学, 生命理工学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 上流ORF / 小タンパク質 / ミトコンドリア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は「ヒトmRNAの5'非翻訳領域に機能性タンパク質がコードされている」という仮説の検証を目的とし、その具体的な方策としてヒト上流ORFにコードされるタンパク質(uORFp)の中からミトコンドリア機能に関わるuORFpを探索し、その機能発現機構を解明することを目指している。 申請書提出の段階ですでに特定していた「ヒト-マウス間でアミノ酸配列が高度に保存されている36種類のuORFp」のそれぞれにGFPタグをつけて、ヒト培養細胞で発現させ、ミトコンドリアに局在する11種類を得た。さらに、そのうちの2種類のuORFpを細胞内で発現させると、マトリックス-膜間領域の電位差(膜電位差)が低減することを、JC-1試薬を用いて明らかにした。 これらuORFpはそれぞれ70と103のアミノ酸からなる短いタンパク質であるが、このJC-1解析の結果は、そのなかに、ATP産生というミトコンドリアの中心的機能に直接関わる膜電位差制御に関わるペプチドモチーフがあることが示唆された。そこで上記2種類のうち、全長70アミノ酸からなるuORFp(uORFp_m1)に対して、N末端から2番目のアミノ酸から、2アミノ酸ずつを2つのアラニンに置換した35種類の変異体を作成し、それらを細胞内で過剰発現したのちにJC-1解析をしたところ、野生型と比較して膜電位差をより減少させる変異体や、野生型過剰発現で見られていた膜電位差の変化を解消する変異体を得ることができた。以上の結果から、uORFp_m1のアミノ酸配列上には、異なる膜電位制御モチーフが少なくとも2つ存在することが明らかとなった。これら各モチーフには、異なるタンパク質が相互作用している可能性があることから、30年度はその同定を試み、ミトコンドリア機能に関わるタンパク質をコードするuORFpの存在をより確実に実証することを目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、ヒト-マウス間でアミノ酸配列が高度に保存されているuORFpを36種類特定し、生物種間で共通して重要な機能をもつ可能性の高いuORFpに絞って研究を進めた。まず、uORFpにGFPを融合させ、培養細胞で発現させることでミトコンドリアに局在するuORFpの探索を行ない、ミトコンドリアで機能する可能性のある11種類のuORFpを発見した。次に、11種類のuORFpが、ミトコンドリアでのATP合成に必須であるマトリックス-内膜間の膜電位差に影響を与えるかを検証した。この評価には、JC-1(ミトコンドリアのマトリックス内に膜電位依存的に取り込まれ蛍光波長が変化する)試薬を使用した。その結果、2つのuORFがヒト培養細胞での過剰発現時、ミトコンドリアの膜電位差を低減させるというデータが得られた。 そのうちの一つのuORFp(uORFp_m1)は70アミノ酸からなり、あるミトコンドリアタンパク質ファミリーが持つモチーフ配列を含んでいた。そこで、モチーフ配列部分をアラニンに置換した変異体を作成し、これらが野生型と同様にミトコンドリアに局在し、同様にその膜電位に影響を与えるか調べた。その結果、変異体では過剰発現時でもミトコンドリア膜電位差低減を起こさなくなることが分った。 上記、過剰発現系の実験によって、uORF_m1がミトコンドリアの膜電位調節に関与する可能性を示唆するデータが得られた。現在は、uORF_m1の欠損および変異を培養細胞の染色体上で起こすことで、内在性のuORF_m1がミトコンドリアの膜電位調節に関わっているかどうか検証する実験を進めている。また、これまで発見したミトコンドリア局在uORFpだけではなく、ミトコンドリア機能に関わるuORFpをより網羅的に探索するため、ヒトとマウスでアミノ酸配列の保存性の高い128種類のuORFpの発現ベクター作成を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に得られた変異体解析の結果は、mito_uORFp_1のモチーフ配列変異体がミトコンドリア膜電位差低減に関わっていたことを強く示唆しており、mito_uORFp_1の機能性示唆、および機能メカニズムを理解する上で大きな成果で あった。 本年度は、前年度に行なった過剰発現系での実験ではなく、mito_uORFp_1をコードする領域の欠損および変異を培養細胞の染 色体上で起こすことで2つの事を明らかにする予定である。1つ目は、mito_uORFp_1が細胞内で発現しているかどうかを検証することである。前年度までに、mito_uORFp_1を認識するウサギ由来の抗体を作成しているため、内在性のmito_uORFp_1を検出することが可能である。mito_uORFp_1コード領域を欠損させた細胞株を樹立し、この細胞を野生型細胞の比較対象として抗体を使 用したタンパク質検出を行うことで、内在性のmito_uORFp_1の存在を強く示唆することができる。2つ目は、内在性のmito_uOR Fp_1がミトコンドリアの膜電位調節に関わっているかどうかを検証することである。前者の実験によって、内在性のmito_uORFp_1の存在が確認できれば、mito_uORFp_1の欠損および変異により、ミトコンドリア膜電位がどう変化するのかを調べることが可 能である。また、本年度は、ミトコンドリア機能に関わるuORFpをより網羅的に探索するため、ヒトとマウスでアミノ酸配列の保存性の 高いuORFpの発現ベクターを128種類作成し、タンパク質の細胞内分布を調べる研究を予定している。
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