2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J11029
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
亀有 碧 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
Keywords | 中上健次 / テクスト間相互関連性 / インターテクスチュアリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は中上健次の文学テクストを分析対象に、諸テクストの相互関連性および相互関連性によって提示されるテクストの歴史性、とくに差別の問題について研究し、その成果を論文投稿および学会発表を通じて共有した。 第一に、ジュリア・クリステヴァによるインターテクスチュアリティの概念がテクストの歴史性を分析する手法として理論化されていることを示し、その具体的分析を、中上健次の小説『千年の愉楽』における谷崎潤一郎の小説「春琴抄」の引用と改変を例におこなった。以上の成果は、日本文学協会第38回研究発表大会において発表したのち、論文を執筆中である。 第二に、中上健次の小説「欣求」を含む現代日本文学三作品において、中世から語り継がれてきた「しんとく丸伝説」の話型がいかに引用され改変されているかを明らかにした。以上の成果は、イベント「木ノ下歌舞伎スピンオフプログラム「古典精読講座」第四回」において発表後、書籍『語り継がれた異色作 摂州合邦辻2019』に収録された。 第三に、被差別部落に取材したルポルタージュ『紀州』を対象に、中上健次の差別理解を同時代の思想潮流と比較しながら明らかにした。以上の成果は、国際学会The Japanologists' Playground Conferenceにおいて発表後、同論文集に論文を投稿のち審査中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、中上健次の文学テクストを分析対象に、作品内外に及ぶテクストやテクスト内の諸要素の相互関連性について研究した。これは、昨年度の研究から継続して行ったものであるが、ジュリア・クリステヴァによるインターテクスチュアリティ概念にあたることによって、テクスト間相互関連性に対する分析をテクストの歴史性を明かす手法として理論化できた。これは、当初の計画および昨年度の研究成果からは前進し、歴史という新たなファクターを読解に組み込むことが出来た点において大きな成果だったと考えている。また、そのため当初の研究計画には取り入れていなかった、中上健次のテクストにおける差別の主題も分析したいと考え、被差別部落に取材した『紀州』の分析を行った。 以上の成果は、論文および学会発表において提示した。具体的には、書籍『語り継がれた異色作 摂州合邦辻2019』に講演内容を掲載し、国内学会である日本文学協会第38回研究発表大会、国際学会であるThe Japanologists' Playground Conference、イベント「木ノ下歌舞伎スピンオフプログラム「古典精読講座」第四回」において発表した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後はインターテクスチュアリティの更なる緻密な理論化を通じて、中上の他作品と古典や現代日本文学とのテクスト間相互関連性の分析を研究計画に則って進めていく。
|
Research Products
(4 results)