2017 Fiscal Year Annual Research Report
高等学校における部活動規模の拡大条件に関するブール代数アプローチによる検討
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17J11037
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
加藤 一晃 名古屋大学, 教育発達科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 戦後部活動の転換 / 高校生の放課後 / 運動部活動 / 文化部活動 / 必修クラブ / 昭和45年学習指導要領 |
Outline of Annual Research Achievements |
高等学校部活動の拡大メカニズムを明らかにするという研究課題のもと,2017年度は,資料収集と既存統計の再整理を行った。部活動に関する先行研究の課題は,部活動の拡大を①全国的な平均値でのみ議論しており学校レベルの実態から分析されていないこと,および②対象が運動部に偏っており文化部も含めた総合的な視点が欠けていたことである。本研究ではこれらの課題に取り組んでいる。 本年度の調査・分析により,戦後高校部活動の展開に関する重要な知見を得ることができた。2017年度中に行った第一の作業は,全国レベルで行われた既存調査の再整理である。その結果,1970年代前半までに行われた調査では,一貫して文化部加入率が運動部加入率を上回っていたこと,そして1970年代後半以降は文化部加入率が低下し,運動部加入率が文化部加入率を上回るようになったことが明らかになった。 次に,なぜ部活動の多数派が文化部から運動部へ変化したのかを分析するために,学校レベルの資料の収集を行った。学校レベルのデータを分析した結果,1970年代に生じた文化部から運動部への多数派の変化は,1970年代前半に「必修クラブ」が導入された帰結であることが明らかになった。必修クラブとは,部活動と類似した活動を授業時間内で行うものであり,昭和45年学習指導要領によって必修化された。必修クラブは1973年より実施されたが,ちょうどその実施時期に,文化部加入率の急激な低下が見られる。その理由は,もともと短い時間で行うことのできた文化部の活動に対して,必修クラブが代替的な場となったためであると考えられる。 このように,戦後高校部活動の歴史的展開を,運動部だけでなく文化部の動向も含めて明らかにした点に,本研究の意義がある。この知見は,運動部中心に行われている現在の部活動像を相対化し,今後部活動改革を進めるうえでの重要な資料となりうる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年度は,おおむね当初の研究計画に沿って,資料の収集・分析を行うことができた。本研究では,過去に各高等学校が発行した学校要覧を収集し,部活動の拡大する条件を探っている。2017年度中は埼玉県,山梨県,岐阜県,和歌山県,愛媛県の各高等学校が発行した学校要覧を収集し,分析が可能な形に整理する作業を行った。いずれの県についても,一定量の資料が得られ,その分析からいくつかの知見を導くことができている。 ただし,既存資料の収集・再集計を行っている最中に,戦後部活動の展開に対し,当初予想していたものとは違う要因が働いていることが示唆されたため,若干の分析方針の転換を行っている。当初は,部活動が拡大した学校と,そうでない学校が存在すると仮定し,どのような学校の特性が部活動を拡大させている要因なのかを明らかにしようとしていた。しかし,1970年代に生じた変化は,全学校規模で起こっていることが徐々に明らかになってきたため,学校の特性ではなく,時代的な要因を探るように方針転換した。その結果,高校部活動における多数派が文化部から運動部に変化していったプロセスおよび背景を明らかにすることができた。 このように分析の方針転換があったため,2017年度中は主要な知見の公表に至っていないものの,各学会にて投稿する準備は整っている。論文としての公表には当初の予定から遅れが見られるが,当初よりもより豊かな知見を得ることができたため,研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度の研究成果を踏まえると,2018年度の課題は次の3点である。 第一に,2017年度中に得た知見の論文としての公表である。2017年度中は,戦後高校部活動の展開に関して重要な知見をいくつか得ることができたが,まだ論文としての公表には至っていない。2018年度は,これらの知見を各学会に投稿し,研究成果の公表を目指す。 第二に,1980年代以降に運動部加入率が上昇した背景の解明である。2017年度中は1970年代に文化部から運動部へ多数派が変化した要因を明らかにしたが,2018年度はその後の展開を明らかにする。1980年代以降,文化部加入率は2~3割程度にとどまっているが,運動部加入率には継続的な上昇が見られる。こうした傾向がいかにして生じているのかを明らかにすることが課題である。そのため2018年度は,1980年代以降の学校要覧を重点的に収集し,運動部加入率がどのような背景によって上昇したのかを分析する。 第三に,1960年代までの文化部活動の実態を再評価することである。2017年度に行った分析の中で,1970年代前半までは文化部に参加する生徒が多数派だったことを明らかにした。しかし,その当時どのような活動が行われていたのかは,明らかになっていないことが多い。そこで,個別の学校が発行した生徒会誌や沿革史の記述から,当時の文化部の活動がどのようなものであったのかを検討する。 上記の課題に取り組むことで,戦後高校部活動の展開をとらえなおす。それにより,今後の部活動,ひいては高校教育のあり方を構想するうえでの有益な情報を提供できると考えている。
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Research Products
(2 results)