2017 Fiscal Year Annual Research Report
超高効率送電技術に向けた超伝導ナノ組織制御に関する研究
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17J11158
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
杉原 和樹 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 高温超伝導体 / 人工ピンニングセンター / 超伝導電力ケーブル / 機能性薄膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はレアアース系高温超伝導薄膜における縦磁場効果の発現機構解明に関して、短尺試料における評価を行った。高温超伝導材料としてSmBa2Cu3Oyを選択し、薄膜内に様々な形状の常伝導体(人工ピンニングセンター、APC)をナノ制御して添加し、それが縦磁場中超伝導特性に与える影響を評価し、13th European Conference on Applied Superconductivity及び30th International Symposium on Superconductivityの2件の国際会議にて報告した。結果として、電流に直交する磁場中超伝導特性の比較から、薄膜面外に対して面内の特性が縦磁場中特性により密接に影響することが確認できた。しかしこれまでに報告した、APCを多層構造により規則的に導入した薄膜構造において観察できたような大幅な電流容量増大は確認できず、APCの特性だけでなく薄膜構造が縦磁場中特性に大きく寄与することを示している。また、縦磁場効果利用電力ケーブルの試作実験のため、短尺試料で大幅な電流容量増加が観察できる薄膜構造を金属基板上で検討した。縦磁場効果により10%以上の電流容量増加を観察し、この薄膜構造を中尺試料にて実現しようとしている。金属基板上での評価結果は学術誌への投稿準備中である。ケーブル試作に関しては、APCを導入していない中尺試料において、10 cm級の導体試作評価を行っている。ケーブル導体を試作評価する上で、液体窒素中における超伝導層の保護、また電流、電圧端子接続のために、最表面への銅めっき技術の確立に着手した。この銅めっき技術に関しても検討、報告が少ないため、学会等への報告を計画している。また、今後はAPCをナノ制御導入した中尺試料において、ケーブルの試作評価を行う計画である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでAPC添加層と無添加層を規則的に積層した薄膜構造を中心に縦磁場効果の評価を行った。これはAPC添加層による磁束のピン止めと、無添加層に外部磁場と並行な電流が流れることが縦磁場効果の発現に有効であると推察したためである。比較として、薄膜内にランダムにAPCを導入し縦磁場中特性を評価した。結果として、面内方向の磁場に対して有効なAPCが縦磁場中特性により大きく寄与していることを確認した。しかし、いずれの試料においても電流容量の増大は観察できなかったため、磁束のピン止めが十分であっても、積層構造のように電流が磁場に対して並行に流れられる層の存在が重要であるといえる。 縦磁場効果による電流増加は1 T以下の低磁場において顕著であり、それ以上の磁場中において電流は単調減少する。1 T以上の磁場中特性に着目すると、APCの有無や薄膜構造にかかわらず磁場に対して2次関数の関係で単調減少することが確認できた。これはある程度の磁場以上では、APCによるピン止めよりも一般的な超伝導物理が縦磁場中特性の決定に支配的であることを示している。 応用に向けてこれまで大幅な電流増加が観察できた薄膜を様々な条件で作製、評価し、金属基板上でも再現することができた。現状で自己磁場に対して最大で10%以上の電流増加が観察できている。この電流増加を電力ケーブルへ応用するため、まずはAPC無添加中尺線材によるケーブル試作に着手した。長さ約10 cm、幅2 mmの中尺線材を作製し、これを16本用いてコア直径10 mmのケーブル導体の試作を行った。結果として、電流端子を接続する際に、保護層であるAg層がハンダにより融解し、超伝導層に深刻なダメージを与えることがわかった。そのため、ハンダによる熱融解に耐えられる強固な保護層として、電解めっきによるCu保護層の作製を新たな研究課題として立ち上げ、現在着手している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的はレアアース系高温超伝導薄膜における縦磁場効果の発現機構の解明及び縦磁場効果を利用した超高効率電力ケーブルの提案である。 縦磁場効果の発現機構の解明に関しては、薄膜構造にかかわらず縦磁場中電流特性を2次関数フィッティングできることを確認している。超伝導物理において磁場に依存するパラメータは数多くあるが、通常の直交磁場中における報告もまた数多く存在するため、それらを活用、検討して縦磁場中においても対応するより強固な理論構築を目指す。また、縦磁場中特性には電流による自己磁場が大きく寄与していることが考えられる。現在評価を行っている超伝導薄膜の形状が自己磁場の大きさの分布を生み出していると考えられるため、磁場の分布や大きさ、磁束ピン止めの方向を分離して検証することで、実験結果と理論の整合性を評価する。また、計算機シミュレーションによる縦磁場中の磁束運動の可視化を目指す同研究グループの研究との比較も行う。 縦磁場効果を利用した電力ケーブル提案に関しては、現状のAPC無添加中尺導体の試作評価を最優先する。現状で超伝導層の保護層であるAgの熱的な脆弱性が課題となっているため、新課題として着手したCuめっき技術の確立を目指す。このCu保護層はハンダ熱への耐久性だけでなく、液体窒素中での熱的、力学的な耐久性や超伝導層からの酸素離脱の防止、過電流安定化等の機能も求められるため、これらの評価を並行して行う。中尺導体は10 cm級を主に作製し、縦磁場中特性の増大が確認できるAPC添加線材を用いて同様な導体試作、評価を計画している。
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Research Products
(2 results)