2017 Fiscal Year Annual Research Report
近世後期から明治期京都における染織意匠の展開に関する研究
Project/Area Number |
17J40031
|
Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
加茂 瑞穂 京都工芸繊維大学, 研究戦略推進本部, 特別研究員(RPD)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
Keywords | 懸賞図案 / 小袖雛形本 / 図案集 / 型紙 / 友禅染 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.京都における染織関連出版物を通じた染織意匠の展開 (1)国際シンポジウム「書物にみる絵とことばの350年」では、着物の背面図を描いた小袖雛形本と絵入り百科事典『訓蒙図彙』の形式を踏襲した『武具訓蒙図彙』を取り上げ、書物と工芸、装飾品とのデザインにおける関連性を報告した。(2) 展覧会「纏う図案―近代京都と染織図案I」では近代京都の染織図案に焦点をあて、製品となる前段階のアイデアである図案の発展を教育・産業面から捉えた。明治期の図案教育機関における生徒作品や図案募集への応募図案、出版された図案集、実際のきものなどを出品した。こうした作品から明治期京都における染織図案とそれをめぐる教育機関(京都美術工芸学校・京都高等工芸学校)と産業界の動き(友禅協会)を具体的に提示した。 2.染織図案をもとにした染織意匠の展開 明治中~後期における染織図案の展開を明らかにするために、京都で設立された友禅染事業者による団体「友禅協会」に焦点をあてた。本年度は、論考と口頭発表により研究成果を発表した。 3.新規資料の発掘と整理 (1)型紙コレクションの紹介 過年度より調査を進めている型紙コレクション(京都市)は、これまで学術資料として整理されてこなかったが、デジタル化を皮切りに学術資料化を進めている。しかし所蔵枚数が18,000枚にものぼるため、継続調査・整理を進めている。また、コレクションや型紙の情報を社会へ発信するため、型紙の解説を執筆し定期的に発信した。(2)「京都を起点とした染色技術及びデザインのグローバルな展開に関する研究」の共同研究では、近代京都を起点として染色産業がどのように国内外へ展開されてきたのか、あるいは影響を受けてきたのかを染色技術やデザインを通じて明らかにするため、染織産業従事者の聞き取り調査や所蔵資料の調査、資料のデータベース構築をおこなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
染織図案をもとにした染織意匠の展開については、明治期に京都で開催された懸賞付き図案募集に焦点をあてた。明治中期から後期にかけて開催された染織図案募集は多いが、実態は不明なままであり、着目した友禅協会は応募図案と文献資料が残る稀有な例である。応募図案の整理と分析を進め、図案を描いた人々が前代の伝統から脱却しようと試行錯誤した様子を口頭発表及び論考として発表することができた。一方、染織は世界中で産業として機能している分野のため、きものもまた、さまざまな国・地域から影響を受けている。成果発表を通じてきものをさらにグローバルな視点から捉える必要性を痛感した。 京都における染織関連出版物を通じた染織意匠の展開については、京都工芸繊維大学美術工芸資料館における展覧会「纏う図案―近代京都と染織図案I」として成果をまとめるため、調査を進めた。当初、3年間の研究成果をまとめるための展覧会を予定していたが、毎年展覧会を担当することとなり、当初の計画を変更した。展覧会では、京都市内を中心とした各所蔵機関が所有する出版物及び明治期の生徒作品、きものを調査の上、展示した。展覧会では、明治期にきものの意匠を産業界や教育機関がどのように高めていこうとしていたのか、また、産業界と教育機関の結びつきを浮かび上がらせる構成にした。これまでの研究では明らかにされていない着目点から展覧会を開催することができたが、観覧者に伝えきれない部分もあったため、展示品の選定や解説の表現方法などについて次年度以降の課題としたい。 京都の老舗呉服店やきものを制作する職人へ聞き取り調査を実施することができた。調査では、業界の変遷やきものの位置づけ、意匠の変化、技術の継承について聞き取った。主に昭和30年代以降から現在あるいは未来に向けて、現場を見ている人々から聞き取ることができたため、非常に貴重な証言を得られた。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)染織関連出版物の整理・考察 2018年度は京都工芸繊維大学附属図書館、京都府立京都学・歴彩館を調査対象とする。対象資料は、明治期に購入・寄贈を受けた図案関連資料(和書)とし、目録を作成する。なお、資料数が多いため調査は分担して進め、共同でおこなう予定である。 京都工芸繊維大学の前身である京都高等工芸学校は図案科を有し、図案教育をおこなっていた。また、歴彩館の前身は明治31年に開館した京都府図書館であり、図案室を有して美術工芸に関わる事業者に図案資料を提供していた。2機関の調査を通じ、明治期の図案集と出版、現場(教育・産業)での活用について明らかにする。その成果は、京都工芸繊維大学美術工芸資料館における展覧会とシンポジウムとして発表する。 (2)染織産業資料をもとにした染織意匠の展開に関する調査 これまでは、明治中期から後期に開催された友禅協会における図案募集という一団体に関する基礎的な調査を積み重ねてきた。しかし、同時期に開催された他の染織図案募集の状況については、不明な点も多い。これまで進めた調査を起点として、当時の周辺状況を雑誌や新聞等から調査し、明治中期以降の染織図案募集の全体像把握を進める。 (3)収集資料の意匠分析 昨年度に引き続き、染色に使用された型紙及び明治期の友禅図案に関する意匠の情報充実を図る。また、過年度に調査した型紙コレクションを補完する資料が新たに見つかったた新たに調査をおこなう。また、現在図案を手掛ける図案家に聞き取り調査を実施し、図案を描く側から見た明治期と現代との図案の相違点や共通点を浮かび上がらせ、研究へ反映する。 (4)染織従事者及び染織関連団体への聞き取り調査 昨年度に引き続き共同研究「京都を起点とした染色技術及びデザインのグローバルな展開に関する研究」において、メンバー等とともに京都市内の関係者・関係各機関への聞き取り調査を実施する。
|