2018 Fiscal Year Annual Research Report
旧イギリス領の農村からみるポリティカル・エコロジー-レソトとスリランカの比較研究
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17J40062
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
松本 美予 広島大学, 文学研究科, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 旧イギリス植民地 / レソト農村 / 土壌浸食 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、植民地期における農村の土地利用変化に焦点をあて、植民地期の文書を用いた文献調査を実施した。 1830年代、レソトがイギリスに植民地化される40年程以前、南部アフリカでは宣教師が活動し始め、レソトにもフランスから最初の宣教師が渡来した。宣教師たちは住み込んで活動をする中で、現地の暮らしに関する多くの記録を残している。そのため彼らの記録は当時の暮らしを知る上で重要な文献の一つである。宣教師の一人、カサリスによれば1830年代当時、レソトは“見渡す限り背丈のある牧草に覆われた土地が広がっていた”が、1860年代には“どちらの方向を見ても麦とトウモロコシの畑以外は何もなかった”とされる。さらに、1879年の宣教師の報告によると、“レソトの全域は畑で覆われており、地力が尽きるのも時間の問題である”と記録されている。このようにレソトの農耕が土壌浸食を引き起こすまで盛んになった背景には、南部アフリカの南部に位置するケープ植民地(イギリスの植民地)から膨大な人数のボーア人が当時レソト周辺まで北上し、移住してきたことが挙げられる。レソトで栽培された穀物は近隣のボーア人に販売されたのである。また、家族総出で鍬を使って耕す農耕形態も、宣教師がもたらした牛耕用の鋤によって変化し、穀物の大量生産に繋がった。現在も土壌浸食が深刻なレソトであるが、その問題は近年発生したわけではなく、100年以上前の植民地期から続いている問題なのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、スリランカ農村とレソト農村の比較研究である。当初の予定では、昨年度でレソト農村での補足調査とスリランカ農村での第2回目の調査を終えている予定であった。しかし、子の養育のための研究中断を実施したため、主に文献調査にとどまってしまったことは否めない。 しかし比較対象であるレソト農村における研究は補足調査にとどめる程度に進捗しており、昨年度実施した植民地期の文献調査の成果はあったため、研究全体が大幅に遅れているとまでは言えない。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度はスリランカ農村への渡航調査を実施し、調査村の土地利用変遷(ミクロな変化)を明らかにする。具体的には、住人のライフヒストリーの聞き取り調査、耕作地などの測量調査、栽培作物に関する聞き取り調査、食事調査、世帯人数などの聞き取り調査が挙げられる。 その後は、聞き取り調査と文献調査から地域周辺の中での調査村の位置づけを行う。以上を踏まえ、国家レベルのマクロな社会経済変化との関わりの中で、ミクロな土地利用変遷を位置付け、レソト農村の事例同様に研究を進める。 2020年度は、今年度(2019年度)取り組むスリランカ農村の調査結果とレソト農村の結果を比較し、本研究の目的に示した「旧イギリス領」植民地としてのくくりの中で、土壌浸食をはじめとした環境問題についての考察を行う。
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