2019 Fiscal Year Annual Research Report
旧イギリス領の農村からみるポリティカル・エコロジー-レソトとスリランカの比較研究
Project/Area Number |
17J40062
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
松本 美予 広島大学, 文学研究科, 特別研究員(RPD)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
Keywords | 山岳地農村 / 稲作農業 / 出稼ぎ労働 / 換金作物 |
Outline of Annual Research Achievements |
調査対象であるP村における世帯調査の結果、ほとんどの世帯が稲作農業に従事していた。水田を所有しない世帯も、水牛を用いた耕起や脱穀作業を賃金労働として提供することで、村内の稲作に従事していた。収穫された米は、100%自家消費する世帯もいれば、一定割合売却して現金収入にする世帯もいた。野菜を手広く栽培する世帯はなく、皆その理由として、「猿による被害があるため」と、「野菜の買取価格が安すぎて元を取れない」の2つを挙げていた。猿の被害は深刻であり、国の農業普及員も問題視していた。村人は、爆竹を仕掛けて猿を脅かして撃退することを試みていたが、効果はないとのことであった。国の対策として、防獣用の電気柵を設置する世帯へ補助金が支給されていたが、P村でその補助金を利用した世帯はまだなかった。一方で、家の周りの庭畑でコショウを栽培する世帯が多く、主要な現金収入源の一つになっていた。 P村の現金収入は、水田を所有しない世帯に関しては他世帯の農作業の手伝いや、庭畑で栽培するコショウを売ることで得られていた。水田を所有する世帯の中には、収穫した米を一定割合現金化する世帯があった。野菜は、獣害と買取価格が不安定なことから、主要な現金収入源にはなっていなかった。また、Samuldhi Programmeと呼ばれる、政府による低所得者向けの福祉プログラムがあり、毎月補助金が支給される世帯もいた。 最寄りの町で賃金労働をする人も一定数いたが、村全体としては水田稲作を中心とした生業形態があると考える。主に換金作物を栽培する畑に関しては、元々農作業が大変な急斜面であるうえ、獣害対策をしてまで利用する世帯はおらず、賃金労働で現金を得た方が効率的であろうと想像でき、また、農業普及員も同様に話していた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年は8月に3週間のフィールド調査を実施することができ、農村の生業や土地利用に関するデータを得ることができた。水田による稲作農業を営んでいる伝統的な部類の調査村であるが、他の地域の農村と同様、現金稼得手段に頼った生業が成り立っている。先行研究のレビューでは、出稼ぎ労働や商品作物の栽培、そして国からの補助金など、現金稼得の方法が挙げられていた。フィールド調査の結果、先行研究があげていた現金稼得の手段はもちろん取り組まれていたが、その手段に行き着くまでの過程を細かく見ることができた。近年では猿による被害が拡大し、そのことが実際に農民の栽培意欲を失わせることにもなっていた。 また、Grama Niladhari(G.N.)と呼ばれる村の行政官や、Agricultural Instructor(A.I.)と呼ばれる農業局の普及員へのインタビューによって地域の中での調査村の位置づけが聞き取れたため、フィールド調査を実施したことで研究は順調に進展することになった。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究は、時系列に沿って4つの課題のもとで進めている。それは、1)人の定住化直後の生業の把握、2)植民地政府による土地利用への介入と農民の反応、3)独立後の社会経済変化を受けた中での農村の土地利用と生業の変化、4)グローバル化の中での現金稼得手段と土地利用の変化 の4つである。 昨年度までに、レソトに関しては1)から4)まで、スリランカに関しては3)と4)を終了している。今後はスリランカにおける1)と2)、そして最終的にレソトとスリランカ農村の比較を行っていく計画である。 補足調査のためにレソトおよびスリランカに渡航するのが望ましいが、新型コロナウィルスの感染拡大により各国に渡航することが難しいようであれば、渡航を可能な限り先延ばしにするか、もしくはすでに入手したデータと、先行研究のレビューだけで今後の比較研究を進めていかざるを得ないだろう。
|